長年の親友に「交際終了」を告げた女性の真意 78歳の女性が終活で示した「死に方は生き方」

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11月中旬の深夜、ふと目覚めた康弘はベッド近くでうずくまる玲子を見つけた。抱き起こそうとしたが思うようにいかず、老々介護の厳しい現実に直面する。愛妻を緩和ケア病棟に入れる決断を迫られた。

家族で触れて、さすって、声かけをした時間

「お父さんに『好き!』って言いました?」

玲子が亡くなる2日前の夕方、今井は緩和ケア病棟で彼女を見舞った際、耳元でそうささやいた。当日昼間から話せなくなり、目を閉じていた玲子だが、今井の声には黙ったまま首を左右に小さく振ってみせたという。

だが、今井が面会した翌日に容態が急変。夕方には康弘と、娘と息子両方の家族が玲子のベッドを囲んだ。玲子が好きなポール・モーリアや、ニニ・ロッソの静かな旋律が流れるなか、それぞれが彼女の手を握り、腕や脚をさすり、「お母さん」「おばあちゃん」と声かけを続けた。

玲子が約3年前に意思表明書に書いた通りに、家族だけで迎える時間になった。いずれも看取り士が提案する「幸せに看取るための4つの作法」を踏まえてはいるが、今井が事前に教えたものではない。

夫の康弘は淡々と語ってくれた。

「元々は今井さんが『手をつないであげてください』と教えてくれたことから、(看取り時も)どれも自然と生まれたものでした。今振り返ると、妻が倒れる前に(夫として)もっとできることがあったかなという想いもありますが、みんなに囲まれて(妻の希望通りの)見事な最期でした」

確かに親友への「交際終了」手紙など、「死に方は生き方である」と体現するような幕引きだった。

ちなみに今井は、まだ看取り士のことがあまり知られていない現状を踏まえ、自身が看取り士でもあることを、玲子をはじめ山崎家の人たちには玲子が亡くなるまで明かさなかった。あくまでも1人の訪問看護師として、利用者や家族に応じて、看取り士が重視する触れ合いを現場ごとにうながしていた。

玲子さんが夫に宛てた走り書き(写真:筆者撮影)

今井の思いは山岸家の人たちにも自然と引きつがれ、手の温もりにあふれた看取りの時間が生まれて、今回の取材にもつながっている。

結局、恋人つなぎの散歩は実現したが、玲子が「好き」という言葉を康弘にじかに伝えることはなかった。

しかし、玲子が康弘に宛てて、ノートに2017年の8月21日付で「あの世へ行っても、ずうっと感謝し続けています」などと鉛筆で書いた文章が、後日見つかった。

(=敬称略=)

荒川 龍 ルポライター

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あらかわ りゅう / Ryu Arakawa

1963年、大阪府生まれ。『PRESIDENT Online』『潮』『AERA』などで執筆中。著書『レンタルお姉さん』(東洋経済新報社)は2007年にNHKドラマ『スロースタート』の原案となった。ほかの著書に『自分を生きる働き方』(学芸出版社刊)『抱きしめて看取る理由』(ワニブックスPLUS新書)などがある。

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