ビジネスに応用できる「歴史のif」思考の本質 「ありえた未来」を描く歴史改変小説のヒント
もしも今の会社に入っていなかったら?もしもあの時、別の企画を通していたら? 「あの時こうしておけばよかった」といった思考は、後悔や自責の念といったネガティブなイメージを喚起しやすい。しかし、本当にそうだろうか。
このたび、私は「もしもあの時、~だったら」というifの思考に着目した『「もしもあの時」の社会学-歴史にifがあったなら』(筑摩選書)を上梓した。「ヒトラーが第二次世界大戦で勝利していたら……」といったifをモチーフとした歴史改変小説を紹介しながら、「歴史のif」の可能性を追究した本である。
「歴史のif」は単なる歴史の読み物ではなく、社会の問題を解決するさまざまなヒントを与えてくれる。「ポスト真実(post-truth)」とも呼ばれ、客観的な事実が軽視される傾向のある現代社会において、「歴史のif」思考はフェイクニュースに抗う強力な思考となりうるのではないか。
「もうひとつのUSA」はフェイクニュースか?
世の中には、架空世界を描いた歴史改変小説が数多く存在する。たとえば、フィリップ・K・ディックの歴史改変小説『高い城の男』(1962年)は、ヒトラーが第二次世界大戦で勝利する世界を描き、今も根強い人気を誇る。
ディックがモチーフとした「ナチスの勝利」は、歴史的な事実と照らし合わせてみると、実現可能性の低い「歴史のif」であったことがわかる。当時、アメリカが原子爆弾を開発していた以上、それを防ぐ手段をドイツは持ちえなかったからだ(ドイツが先に原子爆弾を開発していたらというifも考えられなくはないが、現実的とは言えない)。
こうした発想は、ウェブ上で拡散されるフェイクニュースの一種なのだろうか。フェイクニュースは、イギリスのEU離脱やアメリカのトランプ大統領誕生の際に有権者に大きな影響を与えたが、明確な根拠を持たないデマ情報だ。
「歴史のif」も現実に起きていない仮定を前提にしているので、フェイクニュースと同じ種類のものと思われるかもしれない。しかし、両者はまったくベクトルの異なるものだ。
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