第2に、歌心のあるフレージングです。即興は、要するにぶっつけ本番で作曲するようなものです。ある瞬間にひらめいたイメージや音楽的なアイデアをそのまま音にしていきます。酸いも甘いも、ミストーンも2度と訪れることのない瞬間の連続が刻まれていくのを追体験するのはジャズの醍醐味です。
第3に、スピード感です。コルトレーンのバラードは絶品です。が、ゆっくりと始まった即興がテンポを上げ、高揚しピークに至るときの圧倒的なスピード感は官能的です。空間を音で埋め尽くす超高速なフレーズも得意です。後年、シーツ・オブ・サウンドと呼ばれ、コルトレーンのトレードマークとなります。その萌芽が感じられます。
コルトレーンのソロが楽団メンバーに火をつけ、モーガンもフラーもドリューもチェンバースもコンパクトながら上質の即興を披露します。
そして、残りの4曲もすばらしい仕上がりです。「ロコモーション」では機関車のごとく疾走感あふれる演奏を披露します。一方、「アイム・オールド・ファッションド」では、しっとりとしたバラードを聴かせます。
たった1日、しかもユニークなスタジオで
実は、この音盤は、1957年9月15日に録音されました。たった1日です。
しかも、最新鋭の機材がそろったスタジオで録音されたわけではありません。それが1957年当時のアメリカ社会の中でジャズの置かれた現実の一端でした。
それに、コルトレーンはこのとき、老舗ジャズ・レーベルのプレステッジと契約していました。ライバル会社のブルーノートへの吹き込みは一筋縄では行きませんでした。しかし、何とか実現しました。
録音場所は、ニュージャージー州ハッケンサックに所在するルディ・ヴァン・ゲルダー・スタジオと記されています。実は、この「スタジオ」については、今回ご紹介している音盤に参加したトロンボーン奏者カーティス・フラーが次のように回想しています。
「ルディの本業は検眼技師で、片手間に始めた録音だけど、とても評判がよかった。でも、スタジオというような代物じゃなくて、彼の両親の家の居間でセッションをし、それを録音しただけなんだけどね」
ただし、ルディは、若い頃からアマチュア無線家で、マイクロ波技術を含め最新の技術進歩に詳しかったのみならず、何よりもジャズが大好きだっだといいます。やがて、ブルーノート・レコードの録音を手がけるようになります。
上述のとおり、セッションは居間で行われ、リラックスした雰囲気でした。しかも自宅の音響は知り尽くしています。温かみのある音に仕上げるルディの手法がブルーノートの音の標準になりました。平日は検眼技師として働いていたので、録音は日曜日に行われていました。
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