即興演奏の絶品が聴ける「ブルー・トレイン」 ジョン・コルトレーンの伝説の始まり

✎ 1〜 ✎ 9 ✎ 10 ✎ 11 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

さて、ジョン・コルトレーン六重奏団の面々です。このとき、コルトレーンは自前のバンドを持てるような状況ではありませんでした。マイルス楽団をクビになり、何とか麻薬を断ち切って、セロニアス・モンクの楽団に雇われていたのです。30歳にして初めて自分名義の音盤をプレステッジから出したばかりでした。

サイドメンとして何度も録音に参加してきたブルーノートで初めてリーダーとして録音するのです。力が入ります。最高にぜいたくなメンバーを集めます。猛者ばかりです。

まず、ベースとドラムは、マイルス楽団の同僚であったポール・チェンバースとフィリー・ジョー。ピアノのケニー・ドリューは旧知の間がら。そして、リー・モーガンとカーティス・フラーは、ジャズ・メッセンジャーズのフロントです。この6人が集まるのは奇跡です。もちろん、このメンバーでの共演は初めてです。

そこで、日曜日の本番の前日、9月14日の土曜日に、マンハッタン50丁目のスタジオで2時間のリハーサルを行いました。コルトレーンの書き下ろした新曲は、単純なブルースではなく、ひとひねり効いています。習熟しなければ、よい演奏は望めません。

そして、翌15日の日曜日、メンバーは、ハドソン川を渡ってルディの「スタジオ」に参集します。結果は、聴いてのとおりです。

そして伝説になった

ジョン・コルトレーンの最初の傑作『ブルー・トレイン』

「ブルー・トレイン」は、シングル・カットされ、全米のジュークボックスで聴かれるヒットとなりました。ダウンロードはおろかステレオが普及する以前の60年以上昔の話です。

ジョン・コルトレーンは、生まれながらのスターではありませんでした。そうとうな苦労もしました。それが、この『ブルー・トレイン』によって世に出ます。そして、肝臓がんで急逝する40歳まで疾走し、ジャズを革新し続けます。強烈な印象を残す名盤を量産します。その伝説はこの『ブルー・トレイン』から始まります。ここには、神聖化される前の傷つきやすい地味で等身大のコルトレーンがいます。耳を澄ませば、そんな男のささやきが聴こえてきます。
 

小栗 勘太郎 音楽愛好家

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

おぐり かんたろう / Kantaro Oguri

1958年生まれ。東京外国語大学卒。米国滞在7年余。音楽愛好家。ポップ、ロック、ソウル、ジャズ、映画音楽からクラシックまで幅広く聴く。現在、 西日本新聞に「音楽プラスα」、毎日フォーラムに「歴史の中の音楽」を連載中。著書に『音楽ダイアリー SIDE A』『音楽ダイアリー SIDE B』(いずれも西日本新聞社刊)。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事