未婚者が「愛」より「金」を圧倒的に信じる理由 はたして結婚において大事なのはどちらか

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しかし、重要なのは、なぜ炭焼五郎が長者になりえたのかという点です。女は無一文で飛び出していますから、五郎は女の金によって裕福になったわけではありません。お話の中では、小屋の周りにたくさん落ちていた砂金の価値を、女が教えてあげたことによります。五郎にとっては、砂金はただのありふれた小石程度にしか見えていなかったのですが、女によってその価値を知ることができたのです。

これを別の見方にすると、女と結婚することによって、炭焼五郎は自分の中に潜在していた能力を発見することができ、それによって仕事で大成したという解釈もできます。これは、『1人でも「寂しくない」未婚者が増える背景』の記事でも書いた、「人とのつながりによって自分の中に新しい自分が生まれる」という考えにも通じるものです。

「愛なのか、お金なのか」答えは?

人は自分の努力によって何かを成し遂げられると思いがちですが、どちらかといえば環境の力によるところが大きいと思います。どんなに才能があっても、その才能を発揮する場所がなかったり、その才能を潰してしまったりする人間に囲まれていれば開花しません。

逆に、元々あった才能でさえ、それを才能だと指摘してくれる誰かがいなければ、五郎のように「そこにあるのに気がつかない」という状態に陥ります。これは何も男女間の結婚や恋愛だけの話ではありません。友人同士でも上司と部下の関係性でも同様です。野球のイチローが大成したのは間違いなく、当時のオリックス監督の仰木彬氏との出会いによるものでしょう。

愛なのか? お金なのか?

エドヴァルド・ムンク「接吻」(画:メトロポリタン美術館所蔵)

自ら問いを出しておいて恐縮ですが、万人に共通する答えはありません。私個人として思うのは、愛もお金も結局は「人とのつながり」次第ではないかということです。

現在、上野の東京都美術館で「ムンク展」が開催中ですが、有名な「叫び」同様に注目を集めているのが「接吻」という絵です。これは、ムンクが「愛と死」をテーマとした個展を開いた際に制作されたものです。

背景や色彩を変え、さまざまな技法で繰り返し制作されていますが、ご覧の通り、接吻を交わす男女の顔が溶け合うかのように表現されています。

音声ガイドでは「愛とは個人の喪失である」という含蓄のある解説がなされているそうです。この言葉に、皆さんは何をお感じになりましたか?

荒川 和久 独身研究家、コラムニスト

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あらかわ かずひさ / Kazuhisa Arakawa

ソロ社会および独身男女の行動や消費を研究する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』(小学館新書)、『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』(ぱる出版)、『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(ディスカヴァー携書)(ディスカヴァー携書)、『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会』(PHP新書)、がある。

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