ここで、「結婚において大事なのは、愛なのか? 金なのか?」を考える題材として、日本の昔話を提示したいと思います。「炭焼長者」という昔話があります。このお話には、初婚型・再婚型・産神問答型などたくさんの派生物語が存在しますが、今回取り上げるのは、鹿児島県に伝わる再婚型のお話です。簡単な粗筋をわかりやすく現代語調でご紹介します。
裕福な家の親同士が決めた結婚で、娘は嫁に行きました。夫婦はしばらく何事もなく暮らしていましたが、ある日夫が妻の作った御膳を「こんな物食えるか!」と足蹴にしました。『巨人の星』の星飛雄馬の家で日常風景だった伝説の「ちゃぶ台返し」ですね。現代では、これもドメスティックバイオレンスに当たります。
告白は男からという考えは昔はなかった
この事件で、妻は「食べ物を粗末にするあんたなんかとやっていられない! 離婚よ」と夫に言い放ち、膳と碗と飛び散ったご飯を拾って家から出ていきます。とはいえ、実家に戻るわけにもいかず、山を放浪します。何日も歩き、暗がりの中ようやく一軒の家の灯りを見つけました。それが炭焼で生計を立てていた貧乏人の五郎の家でした。女は、親切にしてくれた五郎に自らプロポーズします。五郎は身分が違うといって最初は断りますが、女の熱意に負けて結局2人は夫婦になりました。
ここでも明らかですが、昔の日本では、女性が離婚に際して、夫から一方的に追い出されたりするわけではなく、女性が主体的に離婚を選択している事例が昔話に限らず、史実資料の中にも多く見られます。家父長制で男が威張っていたとか、家庭内にて女性の自主的行動が許されなかったというのは明治民法以降の話であり、日本の男女関係はきわめて対等だったことがわかります。
また、この話にもあるように、プロポーズは女性からするというお話も、これに限らず多く見られます。これも、「告白は男がするべき」という規範などそもそもなく、むしろ女のほうから押しかけていくパターンが昔話にはよくあります。古事記でも日本最初のプロポーズは女の神であるイザナミノミコトであったことが記されています。
さて、夫婦となった2人ですが、その後色々あって結局、炭焼五郎は億万長者になり、「ちゃぶ台返し」をした最初の夫は貧乏になって落ちぶれていくというお話で終わります(ラストについても諸説あり)。元々の夫は、裕福でお金持ちだったわけですから、この話の趣旨は「やっぱり結婚はお金じゃなくて愛でしょう」ということになりますが、結果、炭焼五郎が「金持ちになったこと」がハッピーエンドなら、やっばり「お金が大事でしょう」という解釈もなりえます。
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