「欧米は個人主義、日本は集団主義」は大嘘だ

「忖度」はアメリカでも日常茶飯事な理由

佐藤:往年のアメリカ自動車産業など、日本的経営をやっていたのか? という感じですからね。ミシガン州にフリントという町がありますが、ここは住民の多くがゼネラル・モーターズ(GM)で働いていた。そのため1950年代には、GMに感謝するパレードを毎年開催しているんです。パレードの横断幕いわく、「チームワークこそ栄光の秘訣、さらなる高みを目指して進もう」。これが集団主義でなくて何なのか。

アメリカ社会は今も集団主義的

中野:アメリカ社会は今も集団主義的ですよ。日本人でもアメリカをよく知っている人ほどそう言います。

柴山 桂太(しばやま けいた)/京都大学大学院人間・環境学研究科准教授。専門は経済思想。1974年、東京都生まれ。主な著書にグローバル化の終焉を予見した『静かなる大恐慌』(集英社新書)、エマニュエル・トッドらとの共著『グローバリズムが世界を滅ぼす』(文春新書)など多数(撮影:佐藤 雄治)

しばらく前にはやった「忖度(そんたく)」という言葉について、「そういうことはアメリカにはない。英語にはない」なんて言っていた人がいましたが、うそを言ってはいけません。忖度なんてものはアメリカでも普通にありますよ。むしろ映画などで組織に従わない個人がヒーローになっているのは、その反動じゃないかと。

構造改革論者は「個人主義でなければだめ」と言いたがりますが、それは個人主義を称揚するアメリカメディアのプロパガンダを真に受けているからです。実際はアメリカ人が個人主義なのではなくて、アメリカ人の理想が個人主義ということにすぎない。

佐藤:だいたい、わが国では「個を確立しよう」と説く人ほど没個性的と相場が決まっている。アメリカ化への同調を強いているのですから、当たり前の話です。

中野:多様性が大事なら、みんなで「ダイバーシティ」なんて口をそろえて言うなということですよ。そういうのを見ていると、施さんの本とは逆になるけれども、「日本人ってやっぱり流されやすいのかな」という気もしてしまうんです。

柴山:集団主義という言葉はあいまいなところがありますね。人と違うことをやるという意味での個性を認めるのが自由社会だというのがジョン・スチュアート・ミルの古典的な自由論でしたが、集団主義はその反対ということなのか。

佐藤:福田恆存は「個性は強制と禁止によってしか生じない」と喝破しています。いわく、人間は強制や禁止の下で初めて、何を強制されたり禁止されたりするのがいちばんつらいかを自覚する。つまり本当にしたいことが見えてくるわけで、それこそが個性確立の出発点である、と。

柴山:あえて禁止されていることを行うエキセントリックな人間を個性的と考えるわけですね。しかし日本にも「数寄者」「傾奇者」というように、そういう人間を認める文化もありましたね。

佐藤:「歌舞伎」は、「自由奔放に振る舞う」「異様な身なりをする」という意味の「かぶく」が語源です。個性を尊ぶ伝統は、わが国にもちゃんとあるわけですよ。

中野:おそらく日米双方に「集団主義はカッコよくない。個人主義がカッコいい」というバイアスがあるんでしょうね。実際はどの国にも両方の側面があって、時々によって、どちらにより強いハイライトが当たっているかが違うだけでしょう。

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