「欧米は個人主義、日本は集団主義」は大嘘だ

「忖度」はアメリカでも日常茶飯事な理由

:欧米型の、人をそれぞれが独立した存在とみなし、自己主張とぶつかり合いを前提とする「相互独立的自己観」「原理重視の道徳観」に対し、日本では多様な、さまざまな他者の観点を内面化し、その多様な他者の観点から自分の行いを自己批判的に反省し、他者とよりよき関係を保とうとする「相互協調的自己観」「状況重視の道徳観」が文化の基本となっている。日本人は他者の視点から自分の行動を反省することを通じて他者の多様な観点を内面化し、反省を繰り返す。

日本型の「自律性」とは、このように、多様な他者の観点を内面化し、内面化したさまざまな角度から厳しい自己批判を行い、つねに、幅広い視野の下、真に状況にかなった行為を絶えず追い求めていこうとする姿勢のことだと考えています。

成長するにしたがって、身近な特定の他者の観点のみでは満足できなくなり、より広い世間の観点を意識し始める。ひいては、いわば「お天道様」の観点、つまり状況のすべてを把握している理想的な観察者の評価に沿う行為をとろうと絶えず努めるようになる。周囲の評価はどうあれ、「お天道様」に恥じない行為を目指すのです。日本文化には、こういう「自律性」に至る道がきちんと内在していると見ることができるというのが、拙著の主張です。

日本人は本当に集団主義的か

中野:第2次世界大戦についてのベネディクトの主張は、「集団主義に個人主義が勝った」ということなんでしょうか。実際にはアメリカは物量で勝ったわけで、軍隊のマネジメントを考えても個人主義では成り立たない。アメリカは集団主義で勝ったに決まっていると思いますが。

佐藤 健志(さとう けんじ)/評論家、作家。1966年、東京都生まれ。東京大学教養学部卒業。戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』(1989年)で文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を受賞。『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(文藝春秋、1992年)以来、作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動を展開。主な著書に『僕たちは戦後史を知らない』(祥伝社)、『右の売国、左の亡国』(アスペクト)など。最新刊は『平和主義は貧困への道』(KKベストセラーズ)(写真:佐藤 健志)

佐藤:「全体主義に(自由)民主主義が勝った」と言えば、もっと的確でしょうね。なるほど、外的な要因による影響をゼロと見なしてよいのであれば、協調性を重視する国民のほうが、集団主義や全体主義に走りやすい傾向を持つかもしれません。

しかし人も社会も、真空の中に存在するわけではない。国民の気質が個人主義的なら社会システムは民主主義になるとか、協調重視なら集団主義や全体主義になるなどと、安易に断定はできません。社会の置かれた具体的状況、およびその背後にひそむ歴史的な経緯や条件が、大きくかかわってくるのです。

特に重要なのが、19世紀後半以降の第2次産業革命。これによって製造業を中心に「生産規模を拡大し、みんなで助け合うほど、効率よく豊かになれる」状況が成立します。いわゆる「規模の経済」ですが、ならばどの国でも集団主義が魅力的に映るはず。実際、流れ作業による自動車の大量生産を実現したのは、アメリカのヘンリー・フォードでした。

柴山:資本主義の歴史は、個人企業の時代から大組織の時代へと移行してきたわけで、その中で「組織をどう運営していくか」が競い合われることになった。

次ページこれが集団主義でなくて何なのか
キャリア・教育の人気記事
トピックボードAD
関連記事
  • 占いのオモテとウラ
  • 非学歴エリートの熱血キャリア相談
  • 井手隊長のラーメン見聞録
  • iPhoneの裏技
トレンドライブラリーAD
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
トレンドウォッチAD
三菱重工と日立 「統合」破談から<br>10年 製造立国の岐路

10年前に統合構想が破談になった三菱重工業と日立製作所。その後両社は対照的な道を歩み、2009年に伯仲していた時価総額は今や日立が大きく上回っています。本特集では明暗が分かれた三菱重工と日立を主軸に、製造立国・日本の生きる道を探りました。

東洋経済education×ICT