「欧米は個人主義、日本は集団主義」は大嘘だ 「忖度」はアメリカでも日常茶飯事な理由

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佐藤:『菊と刀』を理解するカギは、第2次大戦中の敵国研究として始まったことです。アメリカは当時すでに、日本占領を視野に入れていました。全体主義に走った日本人を矯正するつもりだったのですが、そのためには条件があります。

つまり日本人を「今のところは異質で『悪』だが、正しく導けばアメリカ的な『善』にめざめる存在」と位置づけること。すなわち、この点を矯正したら日本人もよくなるというターゲットを見つけだす(ないし、でっち上げる)ことが求められていたのです。ベネディクトはそれを「恥の文化」や集団主義として提示したのではないでしょうか。

アメリカ型個人主義の裏側

柴山:ミシェル・フーコーが50年前に、近代社会は規律訓練型権力で成り立っていると指摘しましたが、アメリカを見ていると本当にそう思います。表向きは自発的に行っているように見える行為でも、実際にはそうするよう強制され方向づけられている権力の働きは、たとえばアメリカの大学文化によく表れている。授業の前に大量の文献を読ませ、出席を取り、レポートを提出させ、ゼミでは発言しないと点をやらないとか、こういう仕組みをよく思いつくなと感じますね。

中野 剛志(なかの たけし)/評論家。1971年、神奈川県生まれ。元・京都大学工学研究科大学院准教授。専門は政治経済思想。1996年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。2001年に同大学院より優等修士号、2005年に博士号を取得。2003年、論文‘Theorising Economic Nationalism’ (Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に山本七平賞奨励賞を受賞した『日本思想史新論』(ちくま新書)、『TPP亡国論』『世界を戦争に導くグローバリズム』(ともに集英社新書)、『国力論』(以文社)、『国力とは何か』(講談社現代新書)、『保守とは何だろうか』(NHK出版新書)、『官僚の反逆』(幻冬舎新書)などがある。(撮影:今井 康一)

日本の大学は、もともとそういうシステムとは相性が悪い。一昔前の京都大学が典型ですが、そもそも「大学に行くこと自体が格好悪い」という考え方がまかり通っていましたし、大学側にも「期末試験は知人のネットワークでノートを集めて対策を立てろ、あとは好きなことをやってくれ」という緩さがあった。

中野:日本型自由主義ですね(笑)。

柴山:その日本型自由主義は、アメリカ型の規律訓練型個人主義とはずいぶん違うんですよね。その意味でも、個人主義や自由主義については表面だけではなく裏側を考えたほうがいい。

アメリカ型自由主義で秩序が成り立つのは、裏で権力装置が巧妙に働いているからです。日本を個人主義社会に変えるということは、日本人を徹底したパノプティコン(全展望監視)権力の下に作り直すということになりますが、はたしてそれが可能でしょうかね。

佐藤:社会的関係と言えば、アメリカはちょっとしたことでも必ず契約を交わします。しかもそれが細かい。条項に記されていないことは好きにやっていいはずですが、何も勝手にできないよう、思いつくかぎりの点をすべて明文化しておくんですね。

中野:みんながフェイスブックやインスタグラムで自由に発言しているように見えて、実はすべての書き込みがグーグルやフェイスブックの管理下に置かれている。

佐藤:これを「エアコンの自由」と言います。つけるかどうかは任されているし、温度設定も好きに決めていい。ただし窓は開かないようになっている、という次第。

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