最も避けなければならないのは「共倒れ」です。事態が悪化してから妹さんを頼って戸惑わせるよりも、最初から協力をお願いして分業体制を築いておくべきです。いまはまだ介護が必要な段階ではないのですから、準備する期間は十分にあります。
今後、タカハシさんご自身も妹さんも結婚されたり、子どもが生まれたりすると、家族で顔を合わせる機会が少なくなってしまう可能性があります。LINEなどのSNSで連絡を取れば十分という意見もあるかもしれませんが、やはり直接会って話す機会が減ると家族とはいえ段々と疎遠になってしまうものです。盆と正月ぐらいでいいので、家族で集まる習慣を作っておくといいと思います。
「孤独感」を和らげるには家族との時間が大切
さて、気がかりなのはお父様との関係ですね。長年、聞き取り調査をしていて実感しますが、本当に中高年男性は趣味がありませんし、友だちもいません。もちろん、定年後にはそのツケを払うことになります。365日の自由を手に入れても、何もすることがなくボーッとしてしまうのです。
この問題は1990年代には定年後に妻にまとわりつく「濡れ落ち葉」という表現で指摘されていましたし、2015年に出版された内館牧子さん著書『終わった人』でもテーマになっています。30年近く前から認識されていて、当事者もたくさんいるはずなのに、なぜ同じ過ちが繰り返されるのでしょうか。
第一に、本人が仕事さえしていればいいと開き直っているからです。通勤も入れれば、週に最低でも50時間は仕事で消費しているのですから、あとはご飯を食べて、寝てしまえば日々は過ぎていきます。第二に、家族も夫・父親が会社に行ってさえすれば安心なので、無趣味で交友関係がなくても気にしません。日本社会において、仕事を中心とした男性の生き方が自明視されているかぎり、よほど意識的に選択しなければ、現役のうちに私生活を充実させておくという対策が取られることはないのです。
タカハシさんのお父様のケースは、うつ病で一般的な想定よりもさらに早く退職されているので、単に孤独感を味わっているだけではなく、男として無力感を抱いていたかもしれません。居心地の悪い思いをしていても家にいるしかありませんので、余計に孤立するだけだとわかっていながら、ふがいない自分に対するいらだちを家族にぶつけてしまうこともあるのでしょう。
それに対して、タカハシさんには趣味を通じた交友がありますし、職場の人ともたわいのない会話かもしれませんが、できているようですね。雑談力が高いのだと思います。会話の下手な中高年男性は、雑談をする能力が圧倒的に不足しています。そのため、エレベーターで一緒になった女性の部下に対して、天気のような当たり障りのない会話が終わると、何を話していいかわからなくなり、「彼氏いるの?」などと唐突にセクハラ発言をしてしまうのです。
タカハシさんの雑談力を生かして、お父様に何か話題を振ってみてはいかがでしょうか。人を物のように扱うのは、それ以外にコミュニケーションの方法を知らないからかもしれません。雑談ができるようになれば一挙に問題解決とはいきませんが、徐々にでも会話が増えていけば、そこで新しい関係性が築いていけるはずです。
最後に、中年男性にとっての友人問題については、僕も同じように考えたことがあるので気持ちはわかるのですが、タカハシさんの願望が高すぎるかなと思います。
30歳をすぎると、たとえ地元があったとしても学生時代のように時間がないので、ただおしゃべりをして楽しくすごせるような友人関係を維持することができません。それに、同窓会などでも一通り思い出を語った後は、それほどする話はないのが普通です。親友を作りたいと気負うよりも、ちょっとした会話を楽しめる「仲間」がいるのですから、その関係をこれからも大切にしてください。
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