30歳フリーター男性は孤立から逃れられるか うつ病を患う父の介護を引き受ける不安

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1990年代後半、大勢の若者が学校を卒業しても正社員になれませんでした。いわゆる就職氷河期です。ただ、当時は社会問題としてそれほど大きな関心を集めたわけではありません。「景気が良くなったら正社員にすればいいだろう」と、上の世代が事態を楽観していたのです。中高年男性のリストラのほうが、はるかに注目されていました。

「若者」と呼ぶには違和感がある30代になっても、就職に失敗した人たちは非正規雇用で働いていました。10年経っても景気は回復せず、問題が放置されたままになっていたからです。2007年には朝日新聞が、バブル崩壊後の「失われた10年」に学校を卒業した世代を「ロストジェネレーション」と名づけます。「ロスジェネ」と略して広く社会に浸透しました。

2008年には超左翼マガジン『ロスジェネ』が創刊され、「私たちは、『レッテル貼り』によって目の前にある問題や矛盾が隠されたり、未解決のまま先送りされることをのぞまない」と力強く宣言しました。この雑誌には、次のような状況に置かれたアラサー男性が紹介されています。

日雇い派遣。男。29歳。6畳1間のアパートに、ぜんそく持ちの母親と2人暮らし。仕事は製パン工場のライン作業。流れる3色パンの群れ。夕刻、むき出しの7640円。

「でも、僕なりにたたかわせてもらいます」

2008年の大みそかには派遣切りにあった労働者を対象とした「年越し派遣村」が、労働組合や「反貧困ネットワーク」などの支援団体によって日比谷公園に開設され、居場所の提供に加えて、生活保護の相談も行われました。2008年に非正規雇用者の割合は33.7%でしたが、その後、2015年の37.5%まで右肩上がりで増加します。

非正規雇用者の割合が過去最高というニュースは新鮮味を失っており、2010年代半ばには話題にのぼらなくなりました。タカハシさんの「30歳フリーター男性です。実家暮らしで、一度も家を出たことがありません」という自己紹介も、10年前ならギョッとする人もいたはずです。でも、現在では「普通」になっています。

親の介護問題は当事者以外は関心がない

こうして振り返ってみると、就職氷河期がロスジェネを生み出し、この世代が40代になって親も高齢化したことで「7040」問題が浮上したことがわかります。就職氷河期、ロスジェネ、「7040」と10年おきに新しい言葉が登場して、注目を浴びています。しかし、事態が改善するわけではなく、深刻になっていく一方です。きっと2030年頃には「8050」問題が、語呂のいいレッテルとともに議論されていることでしょう。

世間が関心を持ったからといって、社会問題が解決するわけではありません。流行り言葉に頼ることは一発逆転を狙った縦パスばかりのサッカーのようなもので、まったく戦略的ではありませんし、戦術としても正しいとは言えないのです。

長期的に考えると社会の不安定化は日本で暮らすすべての人にとって重要な課題ですが、残念ながら当事者でなければ、そこまで真剣には考えてくれないのが現状です。無関心こそが最大の社会問題であり、同時に、最も解決が困難な社会問題だと言えます。したがって、タカハシさんの場合、介護をすることになれば過剰な負担なのは明らかであるとしても、とりあえず当面は家族でやれることを考えていかなければなりません。

恵まれていると言えるのは、現時点でお母様や妹さんと良好な関係を築けている点です。SEでバリバリ働いている妹に、「兄」である自分が迷惑をかけたくないという気持ちもあるとは思います。はじめのうちは自分だけでこなせたとしても、長く続けていれば必ず疲弊します。

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