アメリカ経済が急失速するリスクは小さい 悲観的過ぎた株式市場と冷静な債券市場

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2018年に入ってからのアメリカ金利上昇には、FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げが続くとの期待が強まっていることが背景にあり、この点が2015年当時とは異なる。現在のFRBの利上げ政策の判断が正しいかどうかは議論が分かれるところで、筆者も判断に迷っている。

ただ、アメリカ経済の先行きについて債券市場はやや冷静に判断している可能性があり、10月のアメリカの株式市場は、アメリカ経済に対して悲観的方向に市場心理が傾いていたようにみえる。

一方、10月にアメリカ株市場が再び急落したことで、日本株は再び大幅下落に見舞われた。TOPIX(東証株価指数)は10月終盤には1600ポイントを一時下回り、年初からの下落率は10%を超える大幅下落となった。欧州株式市場と同様に、アメリカ株が下落するとほぼ同様に下落する、という状況は変わらない。株式市場の観点からは、日本固有の負の問題があるとは認識されていないが、ただ期待できる要因もないということだろう。

日本は依然「緊縮財政路線」に

一方、世界経済の中で再びリスクとして警戒されている中国においては、インフラ投資再開に加えて、個人所得などの制度改革を通じた減税が実現している。現在決まっている個人への所得減税はGDP対比で0.2%程度と当社では現状考えているが、経済状況に応じてさらなる減税政策によって中国当局が対応するとの見方は多い。

また、ドイツでは、アンゲラ・メルケル首相が党首を退任する意向を表明し、後継の党首が誰になるかが注目されている。今後のドイツの政治体制の変化が、欧州経済や経済政策にどのような影響を及ぼすかは不明で、当面はメルケル首相が政権運営は担うので大きな変化はないとの見方も多い。ただ、今後のドイツの政治情勢によっては、これまで財政規律を重視するユーロ圏の経済政策が今後変わるシナリオもありうる。なお、イギリスでは緊縮財政政策を終了させることが打ち出された。

このように、アメリカを含め、多くの国において財政政策を緩和する方向にあるが、2019年にかけて日本では消費増税による緊縮財政政策が実現する可能性が高まっている。これまでも述べているが、こうした状況では、日本経済や株式市場に対する投資家の見方が大きく改善する可能性は高くないだろう。

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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