仲:いわゆる“ギーク”だったんですか。
加藤:そんなに大したものではないのですが、ギークなコミュニティの端っこにいたという感じですね。当時の知り合いの中には起業する人もけっこういました。だけど、僕自身には起業という選択肢は全然、浮かばなかった。どういうわけか、ビジネスに全然興味がなかったんですよね。それから、やっぱりコンピュータも好きだったのですが、本がもっと好きだったから、仕事をしながら本が読める環境にいたいと思っていました。それで図書館の司書や学者になることも考えました。ところが学者を目指して大学院に行ったら、本当に勉強好きな人ばかりで。自分は勉強には向いてないと痛感しました。じゃあ出版社の編集者かなということで、もともと「アスキー」の雑誌に寄稿もしていたこともあって、アスキーを受けて、無事拾ってもらえたという感じです。
仲:コンピュータ好きと本好きが両立できる仕事につけたわけですね。実際、入社してみてどうでしたか?
加藤:やっぱり会社員って、すごくいろんなことを学べるんですよ。雑誌の編集部に配属されて月刊誌に携わったのですが、それが今も生きています。編集長の指示でやることがいっぱいあるから、とにかく経験が積める。月刊誌だから、毎月挑戦ができて、失敗しても翌月には新しいものが出るから、そんなに尾を引くこともない(笑)。週刊誌とか月刊誌というのは、新人にとって非常にいいトレーニングになると思いますね。
しかも、編集長がすごく厳しい人だったことも、今となってはよかったと思います。とにかく「わかりにくいこと」「人を傷つけること」に対して、すごく敏感な人でした。その2つについては特に細かくチェックされていました。
僕のようなオタクって、人の気持ちがわからないところがあるんですよね(笑)。意識せずに上から目線でもの言ってしまったり。当時の僕には本当に勉強になりました。そのおかげで、僕自身も、人を傷つける表現とか、わかりやすさに対しては、今でもとてもセンシティブですね。今、大河ドラマの「八重の桜」の脚本家の山本むつみさんも上司だったのですが、彼女にもすごく文章を直されましてね。上司たちに厳しく教えてもらったことが、今に生きています。
仲:この対談で今のところ会社員経験のある方は、全員、最初にしっかり会社勤めをしていて本当によかったっておっしゃいますよ。
会社にいるからこそできるチャレンジ
加藤:そうでしょうね。会社員のよさって、会社にいるからこそできるチャレンジが、けっこうあると思います。僕の場合は、雑誌の編集部にいながら、並行して書籍も作ったことがあるんです。当時、英語の勉強に凝っていて、英語の学習書作らせてくださいって、上司に企画を出して。
仲:アスキーで英語の本ですか? 加藤さん、もしかして何でも凝るタイプですか? ワインにはまってワインの本を編集したり、飲み歩いて自腹でとんでもない金額を使ってしまったというエピソードも聞いたことがありますが(笑)。
加藤:ワインはやばかったですね。おカネを使いすぎて、一時は破産しそうになりました(笑)。凝るとどこまでものめり込むタイプのようです。
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