仲:だけど、加藤さんはコンピュータギークだったんですよね(笑)。いつから顧客志向を持ち始めましたか? お客さんのことをイメージできるようになったきっかけが、何かあったのでしょうか?
まずは10万部売るためには?
加藤:僕の場合は、実はアスキーで出した『英語耳』のときに気づきました。あの本は僕が編集した3冊目の単行本だったのですが、実は初めて編集した本もけっこう売れたのです。ただ、そのときは、自分が作りたいものを一生懸命に作っただけというのが実際のところです。
すばらしい著者さんと、すばらしいデザイナーさんが力を貸してくださって、販促に力も入れてもらえてヒットしました。ところが『英語耳』のときは、テーマが英語でしたからね。コンピュータの出版社で、専門領域ではないですし、自分が「絶対売れます!」と豪語して、半ば無理やり通した企画でしたから、「絶対売らなければ!」という状況に追い込まれたんです。
だから、最低10万部は売ろうと、数値目標だけはまず立てました。そうすると今度は、どういう人が買ってくれるだろうかということを、初めて真剣に想像しました。推測ですが、日本の中で英語に興味がある人は4000万人くらいはいるでしょう? そのうち、この本のテーマであるリスニングに興味がある人は、保守的に考えれば、その半分として2000万人くらい。そのうちの0.5%に本を買ってもらえれば10万部に届く計算です。ですから、まずはターゲットの2000万人にしっかり届けるものを作って、0.5%の購買層に刺されば10万部に届くと思っていました。
それから、その2000万人というのが、具体的にどういう人かという想像を詰めていきます。その人たちに届けるつもりで、デザインやレイアウトを決めました。結果として20万部売れたのですが、それがきっかけで「届けるべきお客さん」をイメージするということが、すごく大事なんだなと気がついたんですよね。
仲:いい成功体験が、お客さんのことを考えるきっかけになったのですね。
加藤:そうですね、それからは対象として考えられるお客さんの人数の1%くらいが、本を作って売れる最大数だろうと思って企画を立てるようになりましたね。『もしドラ』を例に挙げれば、この作品は「青春」がテーマです。そうすると日本人全員の1億人が対象になると思いました、その1%ですから「うまくやれば100万部は狙えるはずだ」と思って企画を考えます。逆にニッチなテーマについては、対象を広げられるような切り口に変えて、企画を考えています。たとえば、投資信託の本も作りましたけど、投資信託そのものは領域が狭いから、「人生の資産運用」という切り口に変えることで、お客さんの層を広げることができたと思います。
仲:なるほど。切り口を変えて、もう一歩外にいる人にまで接点を増やしたのですね。
加藤:そうですね。仲さんの場合はどうですか? ウォンテッドが提供している「Wantedly」は、自分に合った仕事に就きたいと思っている人に届けたい採用サービスですよね。今度、新しく作った連絡帳作成のサービスの「card」は、もっとユーザーの対象が広いでしょ?
仲:加藤さんも、iPhoneに入れていただいたんですね! ありがとうございます。そうですね、「card」は、スキャンも入力もいらない「名刺管理」アプリです。対象は「すべてのビジネスパーソン」です。もともとウォンテッドの提供している「Wantedly」は転職にかかわるビジネスパーソンが対象です。そこから今回の「card」では、すべてのビジネスパーソンにまでぐっと対象を広げました。
(構成:田中 攝 撮影:梅谷 秀司)
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