アニメが観光産業を革新する武器になるワケ 「らき☆すた」の聖地で起きたこと

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キーワードの1つ、コンテンツツーリズムは、コンテンツへの興味、関心によって「駆動する観光」である。これまでの観光の常識を破る観光だ。観光では、「地理的な距離」「知識の多寡」が重視されていた。修学旅行などを考えても、ついつい、その場所のことを「学習すること」や、その場所に「実際に行くこと」「体験すること」が重視されすぎ、その場所を「好きになること」が重視されてこなかったのではないか。

コンテンツツーリズムを展開していくうえで重要なのは、この「感情的なつながり」をいかに作り出すかだ。それによって、その場所に実際に赴いたり、その場所の知識を得たり、といったことが触発され、その対象に愛着を持つ。すると、何度も訪れることにつながるし、一人ひとりの滞在時間が長ければ経済効果も大きくなる。

場所との「感情的つながり」をいかにつくるか

各地のアニメ聖地で起こったことによって、「アニメ聖地巡礼」という新たな「文脈(コンテクスト)」が出来上がったのも特筆すべき点である。2016年には、「アニメ聖地」を束ねる「アニメツーリズム協会」が発足した。

同協会による「世界中で人気の《ジャパンアニメ》の聖地(地域)を活用した広域周遊ルートのモニターツアー」が2017年に、そして、「アニメ聖地を訪れるツアーの造成・試験販売及び複数のアニメ聖地の周遊性の実証実験」が2018年に、観光庁の「テーマ別観光による地方誘客事業」に採択された。

『アニメ聖地巡礼の観光社会学』(法律文化社)。コンテンツツーリズムがいかに観光産業を変えたかを詳細に書いている。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

今後は、実際にこうした取り組みに、海外からの観光客がどのような反応を示し、実際にどのような回遊行動が誘発されたのか、あるいは、されなかったのか、といったデータを得ていくことが重要になる。「海外からの観光客」と一言で言っても、国や地域によってその特徴は違っているだろう。

また、海外のクリエイターを含めて、日本でコンテンツを作りやすい環境を整えることも今後必要だ。すでに、日本各地にフィルムコミッションがあるが、ロケ地の紹介や弁当や宿泊施設の手配などが主な業務になっている。

現状では、映画やドラマなどの実写作品を主に取り扱っていることが多いが、もっとコンテンツを拡大してはどうだろうか。

小説やマンガ、アニメ、ゲームなどのロケ地を供給できれば、地域と関わるコンテンツがどんどん蓄積されていくことになる。その作品をきっかけに、巡礼が起こり、そこでの出会いから、何か新しいものが創発される。こうした、「創造」や「希望」にあふれた場所が全国各地にできることこそ、本当の地方創生ではないか。

岡本 健 奈良県立大学地域創造学部准教授

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おかもとたけし / Takeshi Okamoto

1983年奈良県奈良市生まれ。北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院観光創造専攻博士後期課程修了。専門は観光学、観光社会学、コンテンツツーリズム学、ゾンビ学。著書に『n次創作観光―アニメ聖地巡礼/コンテンツツーリズム/観光社会学の可能性』(北海道冒険芸術出版)、『ゾンビ学』(人文書院)、『アニメ聖地巡礼の観光社会学―コンテンツツーリズムのメディア・コミュニケーション分析』(法律文化社)がある。

 

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