アニメが観光産業を革新する武器になるワケ 「らき☆すた」の聖地で起きたこと

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巡礼者が、ストラップを求めて、個人商店を回り始めたのだ。これによって、地域住民と巡礼者の距離が縮まり、さまざまな取り組みの企画アイデアもこうした交流から生まれた。大盛況となる「らき☆すた神輿」もその1つだ。

こうした地域を巡る仕掛けは、アイデア創出だけではない効果をもたらす。地域住民の「不安」の払拭である。アニメファンに限らず、地域住民にとって見慣れない人々が自地域を訪れる様子は住民に不安を与える。その不安の正体の1つは「情報不足」だ。

不思議なことに、情報が不足している対象については、基本的な姿勢としては悪感情を抱いてしまうことが多い。観光振興を進めていくと、必ずこうした不安が基になった反対意見が出てくる。それを解消する方法の1つが、直接会う機会を設けることなのだ。「直接話してみると、意外といいやつらじゃないか」と態度が反転する様子はさまざまな観光地で見られる。これは昨今観光地が進めているインバウンド振興などに活かすことができる方法だ。

最近では、アニメに限定しない、各種取り組みに展開している。たとえば、『らき☆すた』の舞台、鷲宮の商工会が企画した「萌輪(もえりん)ぴっく」というオタクが集まる運動会や、「オタ婚活」というオタクのための婚活イベント、そして「WBC(Wotaku Baseball Cup)」が開催された。

アニメ声優・監督来なくとも、地元民と交流イベント

「WBC」とは、アニメ『輪廻のラグランジェ』の舞台である千葉県鴨川市のチームと、鷲宮のチームが野球で対決するイベントであった。2018年9月2日には、わしのみや地区懇親会「らっきー☆BBQ」が開催され、各地から70人の参加者が集まった。特にオリジナルのグッズが買えるわけでも、声優や監督が来るわけでもない。ただ集まって商工会職員や地域住民とバーベキューを楽しむイベントだ。アニメ放映から10年以上経過しているにもかかわらず、こうした集いに人が集まるのだ。

きっかけはアニメであったが、その後、地域の人々や繰り返し訪れる巡礼者同士の人間関係が出来上がり、継続的に訪れるようになっている。アニメの舞台としての「聖地」の上に、人と人との関係性が蓄積されていき、自分にとって大切な場所になっていくのだ。全国のアニメ聖地では、同様のことが大なり小なり起こっており、中には移住してしまう巡礼者も出てきている。

筆者がアニメ聖地巡礼の研究を始めた2008年3月ごろには、学会や講演で発表した際には、「取り組みの持続可能性に疑問がある」とか「経済効果は大したことがないのではないか」といった質問をもらうことが多かった。アニメ作品のすべてが大ヒット作になるわけではもちろんない。とはいえ、多くの人が視聴したアニメ作品である。その作品のファンは必ずいる。そのファン(巡礼者)を大切にし、居場所や活躍できる場所を提供することで、地域への愛着も増していくのだ。

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