名実ともに親を越えることが恩返し 「親子間の壁」より高い「志」を持とう

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私が経験しました「壁」は、親が作ったものではありませんでしたが、それに近い存在の人が作った壁でした。私が入っていた井戸が大きすぎたのか、世間知らずな私に外界はまったく見えず、その壁を乗り越えることはとても大きなトラブルの原因になると思い込んでいて、乗り越えることができませんでした。

半世紀を経た近年まで引きずっていた最大の後悔で、あの時あの壁は絶対に乗り越えるべきだったのにと、何度も自分を責め続けました。「壁の構築者」に対してずっとよい感情を持てませんでしたが、多くの経験を重ねた今では、原因はどうであれ、やっぱり自分の井戸の外にある世界に対する志が壁より低かったという結論に至ってます。非は自分にあったと認めざるをえません。

どんな師匠を選ぶかが重要

よい師匠に出会えるといいですね。今までぬるま湯にどっぷり浸かっていた学生だったのですから、山田さんを責めるわけではありませんが、考えがまだ少し甘いところも散見できます。

私の近所の割烹屋さんには、いつも3人の徒弟制度での弟子がいます。あなたは「1週間に1度の休みでも構わない」と言っておられますが、そこでは休みは1カ月に1度です。と言いますのは休業日であっても、店の大掃除や普段できない修業を切磋琢磨する日となり、丁稚奉公では味覚のセンスを磨く時間もおカネも、ずっとおあずけです。

最初は来る日も来る日も冷蔵庫の在庫管理で、料理中の師匠に渡す食材の順番を間違えて、たとえばきゅうり1本腐らせると罰金1000円などと、少ない小遣いからさらに差し引かれるのです。3人のうち2人はいつも長続きせず入れ替わり、10年近く辛抱した人が独立を許されました。

天ぷらと一言でいえば簡単ですが、新鮮な材料の仕入れ方、魚のさばき方、ダシの引き方、衣、油に入れるゴマ油の割合などと、体で覚えることは満載です。気難しい師匠の本家店の料理より、修業十分、気立てのよい青年が営む分家店の料理のほうがおいしいと評判で、店主の接客態度も反面教師として学んだからだと、もっぱらのうわさです。接客業も学ばなければならず、修業の奥は深いのです。

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