日本が「テクノロジー後進国」感半端ない理由 中島聡×夏野剛「エンジニアは自虐をやめろ」
中島:バブル崩壊後、1990年代の日本は「失われた10年」なんて言われていたわけですが、それが21世紀に入ってもズルズルと延長され、今や「失われた30年」になろうとしています。
ただし、2000年ごろ、ほんの一瞬だけ日本が世界を圧倒的にリードした時期があった。それがiモードだったんです。まだ欧米のIT業界が「WAP(Wireless Application Protocol)がどうのこうの」などと、通信仕様や要素技術の話に終始していた時期に、島国ニッポンではドコモのガラケーがiモードで、バリバリのモバイルインターネット・サービスを事業化していたんです。
当時、私のまわりにいたアメリカ人たちも「iモードってスゲーな」と言っていたし、ちょうど私は向こうで会社を立ち上げたばかりだったので、イベントの時などは勝手に「iモード・エボリューション」と銘打っていました。実際にはiモードと直接関係ない会社だったのに、それだけで広い部屋を確保できたんです(笑)。
夏野:たしかに2000年ごろから、おサイフケータイが登場する2005年ごろまでは、世界中がiモードを絶賛していましたね。結局、iモードは世界にエボリューションを実現しませんでしたけど(笑)。
iモードがグローバルに広がらなかった理由
中島:そこなんですよ、残念なのは。あのとき、私はポジティブな意味で「ガラパゴス」という表現を使ったんです。「小さな島だから実現できた突出した進化」がiモードであり、うまくやれば日本の「失われた10年」に終止符を打てたかもしれないのに……。結局、「ガラパゴス」も「小さな島国でしか通用しない進化」というネガティブな意味で使われるようになってしまった。
夏野:iモードがグローバルに広がらなかったのは、「通信メーカーの限界」というのが理由。結局、通信業界は後進のネット業界にオーバーライドされ、のみ込まれてしまった。
中島:そうですね。キャリアが提供するガラケーでも十分にモバイルインターネット・サービスが可能だったのに、その後から登場したiPhoneとAndroidのスマホがモバイルインターネットの象徴になってしまった。
まぁ、私も夏野さんもiPhoneが大好きだけどね(笑)。正直デバイスとしてとんでもなく素晴らしいかというと、そうとも言えないんだけど、パッケージングとマーケティングと事業戦略が素晴らしかったから。
夏野:その素晴らしさをAppleが発揮できたのは、ジョブズがトップに君臨して、あらゆる決定を下すことができたからとも言える。
生え抜き出世組ばかりが経営陣を形成する日本企業で、中途入社組の外様の執行役員に過ぎなかった私にはいかんともしがたいジレンマはありましたね。
まあ、初代iPhoneが発売される1カ月前にドコモを辞めた私は、すっかりiPhoneに魅了されて、パソコンから何から、全てAppleにしましたけどね。
「あのiモードの夏野が、iPhoneを絶賛しているぞ」なんて言われ、裏切り者扱いされたりもしました(笑)。
中島:それを言うなら、私もとんだ裏切り者ですよ。そもそも最初に入った会社がNTTだったのに、1年で辞めてMicrosoftに転職したし、そこでWindows95を作った張本人のくせにiPhoneを手に入れて、「これはスゲーぞ」と大喜びしていたし。