安倍首相が力込める「生涯現役社会」の現実味 課題は高齢者雇用と健康寿命延伸の2つ

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しかし、支えられる高齢者を75歳以上とし、支え手を74歳以下と定義すると、2017年には1人の高齢者を5.1人で支える状態で、支え手の減少でその比率は低下するものの、2050年には1人を2.7人が支える程度にとどまる。

この比率は、65歳以上を高齢者と定義した場合の今の状況より、支え手が多い人口構成であるといえる。これが産業構造審議会の2050経済社会構造部会の第1回会合資料で示された。74歳以下を支え手とできれば、1人当たりの社会保障負担も軽くできる。その意味でも高齢者雇用の促進は重要といえる。

高齢者雇用をさらに促進するには、高齢者継続雇用制度の見直しや中途採用の拡大が必要となる。だが、言うは易く行うは難しで、克服すべき課題も多い。65歳以上へ継続雇用年齢を引き上げるには、人事評価や報酬体系の整備を進める必要がある。

適材適所でない形で高齢者を雇用することを企業に無理強いするわけにはいかない。政府主導の政策誘導だけでなく、民間主導のコンセンサス形成も求められる。

インセンティブ措置を強化する必要がある

もう1つ、健康年齢を延ばせるようにするには、現役世代も含め、予防・健康へのインセンティブ措置を強化する必要があろう。そこで、2050経済社会構造部会の第1回会合で出たアイデアに、「ナッジ」がある。

ナッジとは行動経済学で使われる用語で、ちょっとした工夫で個人に気づきを与え、よりよい選択ができるように支援する手法を指す。第1回会合で紹介された事例では、食塩中の塩分を徐々に減らしても、人は味の変化に気づかないことを利用し、イギリスで食品メーカーの協力の下、5年間で加工食品中の塩分を40%低減させ、塩分摂取量が15%減少した結果、生活習慣病(虚血性心疾患・脳卒中)の患者数が約4割減ったという。

今後、日本で予防・健康への動機づけのために、ナッジが使える可能性が大いにあろう。検診案内を自分の健康に関心を持ってもらうようなデザインにして受診を促すことや、拙稿「『健康スコアリング』が問う、社員の心と身体」で紹介した「健康スコアリングレポート」で経営者に従業員の健康について気づきを与えたりすることが考えられる。

こうした検討を深め、2019年夏までに成果を反映させる方針だ。負担増の議論は来年の参議院選挙後になりそうなだけに、選挙前は「生涯現役社会」の実現に向けた活発な議論に期待したい。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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