結婚10年、37歳で離婚した女が受けた壮絶DV 長男の小児喘息発覚に「俺の子じゃねえ!」

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それは、長男が1歳2カ月を迎えたばかりの、ある日の夕方のことだった。息子が苦しそうにせき込んでいた。最初は風邪かな、と思っていた。しかし、すぐにゼーゼーヒューヒューという呼吸音に変わり、それと同時に唇が紫色に変化した。看護師の経験から、すぐにチアノーゼだと感じて、救急車を呼んだ。

救急で駆け込んだ病院では、あまりに重篤な症状だとの診断で、県立の子供病院に救急車で転送された。そこで息子が、重度の小児ぜんそくだと医師に告げられたのだった。その事実を知った夜から、夫の態度は豹変した。

「俺の家系にはそんな弱い子はいねぇよ!!」

家に帰るなり、「それは俺の子じゃねぇからな! 俺の家系にはそんな弱いやつはいねぇよ!」と聡は恵理子さんをののしった。突然目の前が真っ暗になった。

「夫が、『うちの家系にはこんな病弱な子はいない』と大声で怒鳴ってきたんです。私が『息子の病気をそういう受け止め方をしないで。病気なんだから、しょうがないじゃない』って何度も泣きながら説得したけど、『てめえが悪いんだ!!』って言って聞く耳を持たないんです。『てめえ』とかこれまでの人生で、親とか兄弟にも言われたことがなかったし、夫の豹変ぶりにびっくりして頭がクラクラして、全身の震えが止まらなくなりました」

それ以降、聡は、あからさまに長男と距離を置くようになった。

ちょうどその頃恵理子さんは、妊娠6カ月で、すでに第2子となる次男を身ごもっていた。夫は、身重の妻を気遣うこともしなくなり、病弱な長男の存在を完全に無視することに決めたようだった。

長男の長い闘病生活が始まった。

朝起きると、まず長男の呼吸をピークフローメーター(ぜんそくの管理に使用される医療用計測器)でチェックし、朝、昼、晩、とステロイド吸入剤を服用させる必要があった。家は、床にほこり一つない状態をつねに保ち、毎日布団のシーツをすべて取り換える。それでも、長男はいつどこで発作が起こるかわからないため、四六時中つきっきりで看病しなくてはいけなかった。夜中も突発的にぜんそくが起こることも多く、目を離せない。恵理子さんは、長男が発作を起こすたびに、しだいに大きくなるお腹を抱えながら何度も、たった1人で深夜の救急病院に駆け込んだ。

そんな大変な日常に追われながら、6カ月後、次男が無事誕生した。

恵理子さんは、出産後、1週間は産院に入院して体を休める予定だった。しかし、医師に懇願して、特別に5日目で強引に退院することになった。長男の救急病院に呼び出されたからだ。夫の協力が得られないため、産後まもない体を文字どおり引きずって、恵理子さんは長男のいる救急病院にすぐに駆けつけた。高濃度の酸素が充満したテントの中にいる長男を励ましながら懸命に看病をした。

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