「大卒」になれなかった人たちの就活リアル 既卒・中退者の再チャレンジの道はあるか

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9月初旬、岩棚さんは面接時間の1時間前、最寄り駅に到着した。企業の所在地は駅から徒歩で5分ほど。前日にスマホで写メを撮った紙の地図を何度も見ながら歩く。無事に到着すると、まだ時間に余裕があるのを確認して、また駅まで戻った。カフェに入って面接用に書いた自己PRを読み返す。落ち着かない。トイレに入って、ネクタイの乱れを何度も直して、自分に言い聞かす。「今日は失敗できない」と。

面接会場に入ると、採用担当者と役員の2人が座っていた。緊張を隠すように自己紹介をすると、役員がおもむろに口を開いた。「俺、君の家の近くに住んでいるよ」。

世間話から始まった面接に気持ちが和らいだ。面談を主導するのは採用担当者の役割だったが、役員は関心を持って岩棚さんに質問した。岩棚さんは「この人は真剣に僕を知ろうとしてくれる」と感銘を受けたという。

役員は「未経験で採用した80人のうち、10人はITに興味がないと言って辞めた」など、腹を割って現実を話し、こう問いかけた。「仕事には理不尽なことがあるかもしれない。君は耐えられると思うか」。1社目同様、岩棚さんの覚悟を問う質問だったが、今回は違った。「はい、しっかりとがんばります」。結果、岩棚さんはこの1次面接を通過後、2次面接もクリアし、晴れて人生初の内定を取得した。

行動したことが、自信につながった

岩棚さんは、自身の就活をこう振り返る。「私には大卒の肩書も職歴もない。もちろん、私自身が撒いた種ではありますが、仕事に就けずにいるときの恐怖感や自己嫌悪感は常にありました。自信は誰かに持てと言われて持てるものではない。行動したことで今につながりました」。新しい生活に向けては期待と不安が半々だという。岩棚さんは「採用してくれた就職先に恩返しがしたいですね」と意気込む。

文部科学省の調査(2012年度の中途退学者の状況)によれば、大学を中途退学する人は年間およそ8万人弱に達している。さらに別の文科省の調査(学校基本調査)でも、卒業生の7%にあたる4万人程度が、進学も就職もしていない状況となっており、さらに正社員になれなかったり、アルバイトなど一時的な仕事に就いたりした人が合計2.5万人いる。大学から新卒で正社員として就職できる数は約41万人だが、一方で6万人以上が進学もせず正社員にもなれない状況になっている。

主に就業未経験の若者向けに職業をあっせんしている、リクルートキャリアの「就職Shop」には、岩棚さんのような、「大卒→就職」というレールに乗れなかった若者たちが相次いで訪れている。

飲食店でアルバイトを続けている29歳の男性は、20代最後の年を転機にしたいと考えて同所にやってきた。「これまで接客しかやったことがなかったですが、未経験でも受けられるシステムエンジニア職に挑戦しようと思っています」。取材時の2日後には面接が控えていた。「資格も学歴もないですが、面接では接客で培ったコミュニケーション力を活かしたいです」と語る。

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