都内私立大学の付属高校に通っていた岩棚さんは、そのままエスカレーター式に大学に上がり、法学部に進学した。しかし、法律の勉強に挫折してしまい、単位がほとんど取れなかった。結局、単位が足りず、強制的に中途退学することになった。その時点で職に就くことも考えたが、「両親がどうしても大学は卒業してほしいと希望した」(岩棚さん)という。同大学には1回であれば、中退者が再入学できる仕組みがあり、再び大学に籍を置くことができた。だが長くは続かず、結局、卒業できないまま退学することになった。
大学時代は、2つのサークルを掛け持ちし、文学研究と室内ゲームに打ち込んだ。組織の運営も任されるなど、充実した日々を過ごしていた。岩棚さんは「僕の場合、家に引きこもってしまうなど、精神的な問題があったわけではないのです。今思えば、ただずっと甘えていただけだと思います」と振り返る。
岩棚さんの言葉を借りれば、「好きではないことを我慢してやり抜く意欲」の”欠如”は、2度目の退学を経験してからも尾を引いた。昨年の3月に退学した後は、区役所の公務員をめざして試験勉強した。しかし、今年の7月に、それも断念することとなる。予備校の講師の教え方に不満があった、昨年末には身内に不幸があり、勉強に手がつかない時期もあった。さまざまな理由があったが、「結局は気持ちが続かなかった」のだという。
仕事に就く「覚悟」を求められる
公務員への道をあきらめてからは、心機一転、就活を始めた。ゲームに関連する企業など、趣味の延長でできる仕事を探して応募するも、ことごとく縁がなかった。ハローワークでも仕事は見つからず、わらをもすがる思いでネット検索し、職業紹介サービスに行き着いた。
岩棚さんは「未経験でも可、正社員志望、完全週休2日制、年休120日間」を条件に就活し、2社の面接を受けた。1社目の面接はうまくいかなった。緊張のあまりヤケになってしまい、「仕事の理不尽な面にも耐えられるか?」という問いに、ひるんで頭の中が真っ白になった。仕事なのだから、つらいことも多いと頭では分かっていたが、逃げ腰の姿勢が出てしまったという。「君からは覚悟が見えない」という三行半をつきつけられ、採用は見送りとなった。
「やっぱり自分に一般企業は合わないのか」。不安と焦りでまた意欲が削がれそうになるもが、岩棚さんはあきらめなかった。
このとき踏ん張る力の源となったのは「自信」だったという。「自分は職に就くために実際に行動した。その結果、面接の席にも着いた。きっとやれる」。そんな思いが支えとなり、気持ちを保って2社目の面接に備えた。