広がる「30歳まで新卒」、その可能性とリスク 優秀な若者だけが就職できる社会になる?
6月1日、2019年入社の新卒採用の選考が解禁となる。経団連のルールの有名無実化も進むが、明日以降、多くの求職者の就職活動、企業の採用活動が本格化することは間違いない。社会人にとっては毎年変わらぬ光景が繰り返されているように見えるが、就活市場では今さまざまな変化が起きている。
神戸大学大学院経営学研究科の服部泰宏准教授は2016年に出版した『採用学』のなかで、45社のユニークな採用活動を紹介している。総合職採用が一般的な新卒採用においてさまざまな職種、事業毎に人材要件を定めて採用活動を行う会社や、最初に自社の選考を受けた求職者をえこひいきする会社のほか、社員の紹介を要件とする縁故採用、1年間採用活動を行い続ける通年採用、履歴書不要とする採用があったり、求職者に受験料を支払わせることでモチベーションを測ったりするような会社もある。
このように新たな取り組みを始める企業がここ数年で増えてきているが、なかでも大きな潮流となる兆しがあるのが「30歳まで新卒採用」という取り組みだ。今回はこの「30歳まで新卒採用」の光と影に焦点を当て、日本の若年労働市場における問題について考えていきたい。
きっかけはリクルート
「30歳まで新卒採用」が話題になったのは2015年、リクルートホールディングスが2016年度入社者の採用基準として、「2016年4月に入社できること」とともに、「30歳以下であること」と発表したことがきっかけであった。そして2019年度入社採用の活動が始まった今年、東急エージェンシーや損保ジャパン日本興亜が「29歳以下であること」を応募資格に掲げ、新卒採用枠の20代後半への拡張の動きが、にわかに注目され始めている。
経験やスキルが重視されることの多い中途採用は、求人票などを見てみるとおおむね30歳以上のビジネスマンに有利である場合が多い。新卒ではない20代後半を採用する機会が、特に大手企業には多くないのだ。
既卒者(大学卒業後就職していない者)や第二新卒(就職後間もない社会人)に対して採用枠を設ける企業は増えてきているが、それも中小企業やベンチャー企業が中心なのが現状だ。
しかし昨今の大学生や20代の若者を見てみると、大学在学中や卒業後、企業に就職せずに自分自身で事業を起こしたり、大胆で価値のあるチャレンジを行っていたりする人材は少なくない。IT系のエンジニアなど、なんらかの専門性を持っている人材では特に顕著だ。このように、新卒一括採用と中途採用という既存のフレームでは採用しきれなかった人材の中から優秀な人材を幅広く採用したいというのがおおむねの背景と言えるだろう。
イノベーションや新しい事業の創造、事業の多角化など、新しいチャレンジがどんどん企業に求められているなかで、「30歳まで新卒」は非常に合理的な判断と言える。むしろ、本当は優秀で、経験も豊富、それにもかかわらず「大学卒業後5年経っているから」という理由だけで職に就けないほうが異常な事態である。
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