広がる「30歳まで新卒」、その可能性とリスク 優秀な若者だけが就職できる社会になる?

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新卒者のみがゴールデンチケットを持っている状況が良いとはまったくもって思わない。むしろ不条理な仕組みと言えるだろう。しかしそこだけを変えても意味がないのだ。社会にとって重要なことは、新卒一括採用という枠組みをどう拡張するのか、ということではないはずである。すべての人が生きていくために職に就けるということ、そしてそれぞれの人が自分の可能性を最大限発揮し、みんなで社会を豊かにしていくことである。そのためになにをすべきなのかを社会全体として考えていくことが重要である。

つまり、優秀な人材をどう有効に職に当てはめていくかということ以上にわれわれが本当に考えなければいけないのは、「いかにすべての人材を育てていくのか」ということだ。そしてそれが真にすべての人に行き届くということが重要なのである。

職業教育訓練を国が担うヨーロッパ諸国

先進各国の職業教育システムを研究したマサチューセッツ工科大学政治学部教授のセーレンによると、ドイツ、オーストリア、スイス、オランダ、デンマークは企業だけでなく国も職業教育訓練(vocational education and training:VET)に対し積極的に関与しているという。さらにフィンランド、ノルウェー、スウェーデン、フランスといった国々では、企業の職業教育訓練への関与は少なく、むしろ国が担う部分が充実しているという。

日本企業の歴史をたどると、大学を卒業した後の人材育成は企業が担うということが当たり前だった。しかし、企業が十分に人材育成の役割を担えなくなりつつある今、若年労働者をどう育成していくかについては国全体で考えていくべきだろう。そうなったとき、この問題は企業の採用担当者だけでなく、すべての人に関係がある問題となっていく。

もし「30歳まで新卒」をきっかけに新卒一括採用という仕組みを段階的に拡張していくとしても、年齢や経験ごとに採用までのプロセスを設計するとともに、採用後の育成や配属のプロセスにおいても年齢や経験ごとにどう設計するか考えていくことが重要だろう。

今の形になってから半世紀の間、旧態依然として変わらなかった「新卒一括採用」という仕組みに対してさまざまなチャレンジが起こり、変化の兆しが見えてきている。グローバリゼーションや経済成長の鈍化、働き方・生き方の多様化などによって、少なくとも今のままでは新卒一括採用の仕組みが社会に適合しなくなっていることを考えると、こうした動きを始めた企業の功績も大きいし、そのことで救われる人も少なくない。

しかしその変化は何が目的なのか、意図せずともどんな結果をもたらすのか、そもそも大切にしなければならないことは何なのかをまず考えるべきである。

読者の皆さんには、「うちの会社はちゃんと優秀な人材を採用してくれるのだろうか?」と思うだけでなく、「新卒採用」や「若者の育成」はそもそもどうあるべきなのかということを、この機会に立ち止まって、長期的な視点で考えてみていただきたい。

福島 創太 教育社会学者

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ふくしま そうた / Sota Fukushima

1988年生まれ。早稲田大学法学部卒業後、株式会社リクルートに入社。転職サイト「リクナビNEXT」の企画開発等、企業の中途採用に関するさまざまな業務に携わる。退社後、東京大学大学院教育学研究科修士課程比較教育社会学コースに入学し、若者のキャリア形成について研究、修了。現在は同大学院博士課程に在学しつつ、株式会社教育と探求社で、中高生向けのアクティブ・ラーニング型キャリア教育プログラムを開発。また、一般社団法人ティーチャーズ・イニシアティブで、生徒の21世紀型スキルを育む教員の支援、研修にも従事している。近著に『ゆとり世代はなぜ転職をくり返すのか?――キャリア思考と自己責任の罠』(ちくま新書)。

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