近年、リテール分野を中心に大きな不祥事が発生しているのは偶然なのだろうか。
両行にはいくつか共通点も見える。まず、いずれも収益環境が厳しいときに発生している。米国は利上げが始まったものの、歴史的に見ると低金利であり、競争も激化している。
日本の地銀の窮状は言うまでもないだろう。地銀の平均貸出金利は今年2月にとうとう1%を切った。都銀の金利はそれ以下だ。地銀の1拠点当たりの平均貸出額は285億円程度であるから、1支店当たりの年間の貸出金利収益は3億円以下となる。小規模企業向けが1件貸倒れただけで、その店の貸出業務は赤字になりかねない水準だ。
低収益にあえいでいるのは地銀だけではない。地方には、地銀に加えて、信金・信組、農林系金融機関などがひしめく。
このような貸出業務の厳しさから、数年前、ある弁護士は、「最近、銀行から、こういう手数料は徴収しても問題ないか、といった相談が増えている」と漏らしていた。こうした必死の収益確保策が、一連の金融機関の不祥事の火種になったことは否定できないだろう。
また、スルガもウェルズ・ファーゴも、株式市場での評価が高かったことで共通している。高い市場の評価が経営陣の高揚感を生み、ひいては部下への過度な期待と指示を誘発したのかもしれない。
株式投資の判断基準も見直しが必要
このように考えると、今回のスルガの件は、株式市場にも責任の一端があるという見方もできる。高い株価が経営陣に収益拡大のプレッシャーを与えた。あるいは、株式市場にこうしたガバナンスの視点が不足していたのかもしれない。FTSEのESG(環境・社会・ガバナンス)指数では、2017年春の時点からすでにスルガは低スコア金融機関の1つとなっていた。にもかかわらず、株価の評価はその時点でもトップクラスだった。
不祥事が明らかになった銀行だけが特別だったとは限らない。すべての銀行が極めて厳しい環境に置かれており、それは不正を誘発しやすい環境でもある。市場も、もっと企業統治の仕組みや、収益構造、ノルマの設定方法などの非財務情報を重視するべきだ。そうすることが、ひいては経営陣がガバナンスを強化するインセンティブを高めることになる。
2001年に破綻し、ITバブル崩壊の発端となったエンロンのケースでも、株価の上昇が収益至上主義を生んだ。昨今の金融機関の不祥事はそのような大きな混乱は招いていないが、今後もし、より深刻な不祥事が発生した場合、金融市場全体に影響を与える可能性も否定できない。金融機関はもとより、市場参加者サイドも、長期的なガバナンスの重要性をあらためて肝に銘じるべきだろう。
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