日本の医薬産業はなぜ米国に勝てないのか メディシノバ・岩城裕一社長兼CEOに聞く
「典型的なのが、オーファンドラッグ(希少疾病医薬品)に対するスタンスの違いです。日本では、オーファンドラッグは、患者数が少なく治療法も確立していない疾病に対する医薬品ということもあり、採算の観点から敬遠されがちです。一方のアメリカはまったく違います。
難病に挑むオーファンドラッグこそ企業価値を生む
世界の医薬品業界の現状を見てください。アメリカではオーファンドラッグを手がけている企業こそ、売上高や株式の時価総額を伸ばしています。
たとえば、バイオベンチャーとして著名なアメリカのバイオジェン社の売上高に占めるオーファンドラッグの比率は約半分。また同じくバイオベンチャーから出発したセルジーン社のそれは8割にも達しています。オーファンドラッグとして開発され、認められた効能が、別の分野でも効能が確認されることで、医薬の価値が上がっていく好循環を生み出しているのです。ちなみに、日本の武田薬品工業が先日約7兆円をはたいて買収したシャイアー社(本社アイルランド)も、オーファンドラッグから出発しています。
ここまで対応が違うのは、特にアメリカは治療法がない病気を治す薬を開発した企業に対する支援制度が厚いためです。たとえばアメリカでは、国内における患者数が20万人未満の希少疾病について、安全で効果的と考えられる医薬品についてオーファンドラッグの指定を受けることができます。
もしこの指定を受けると、医薬品が将来FDA(米国食品医薬品局)から承認を受けた場合、7年間の排他的先発販売権が与えられ、税制面の優遇措置も受けられます。さらに疾患が命を脅かす恐れがある場合などには「ファストトラック(優先承認審査制度)」もあり、より迅速な開発が進められる状況が整っています。
キリスト教的な観点から「難病で苦しんでいる人を助けたい」「それをビジネスにしたい」など、幅広い観点からも新薬開発が進む状況にあるのがアメリカです。
――そんな中、今メディシノバでは、新薬の「MN―166」(開発コード)が進行性多発硬化症やALS治療薬として注目を集めています。
まずは、進行性多発性硬化症からお話をしましょう。多発性硬化症とは脳やせき髄、視神経に病巣ができることで、脳から全身への指令が適切に伝わらなくなる疾患で、歩行や視覚、知力などさまざまな身体機能の障害が出る。今のところ原因はわかっていません。発症した後は寛解(症状が治まる)と再発を繰り返すのですが、症状が徐々に進行していくのが進行型(2次進行型)で、寛解を経ずに始めから体の機能障害が進む1次進行型もあります。
メディシノバでは元々は日本の製薬メーカーと抗炎症薬として開発をしてきました。つまり「中枢神経増殖因子」として注目されていたのですが、欧米の企業から「多発性硬化症治療薬の候補になるのでは?」と興味を持ってもらったのです。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら