「予防医療で医療費を削減できる」は間違いだ 人生100年時代に向けた社会保障改革とは?
クイズをひとつ。
75歳の健康な高齢者と病弱な高齢者、いずれがこれから多くの医療費がかかると思いますか?
こう問えば、少し考えて、健康な高齢者と答える人は結構いる。ところが、世の中のほとんどの人達は、予防医療で医療費を抑制できると信じているようでもある。この論が間違いであることは、少し考えれば分かるはずなのに、かなりの知識人もそう思いこんでしまうようなのである。これは私にとって、社会保障七不思議の一つである。
ところで、冒頭のクイズで「75歳の高齢者」という言い方をしたのは、昨2017年1月に、日本老年学会・日本老年医学会が合同で、高齢者は75歳からにするべしと提言したからである。両学会は2013年から合同WGを立ち上げて、高齢者の定義についていろいろな角度から議論を重ねてきたようである。
その結果、特に65から74歳は、以前よりは5歳から10歳は若返っていて、心身の健康が保たれており活発な社会活動が可能な人が大多数を占めていることが観察され、両学会は、高齢者という言葉は75歳から使うべきであると主張している。
一昨年末には、リンダ・グラットン達の『LIFE SHIFT―100年時代の人生戦略』が出され、大反響であった。彼女らは、最新の医学研究を踏まえて、人々は健康に長く生きる時代になったことを述べていた。
医学会が言う若返り現象と年金
医学的にみて多くの人が若返り、人生100年になったのであれば、社会制度はこの動きと整合性を持つようにするのは自然である。社会保障、特に年金の世界で有名なロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのニコラス・バー教授が言うように、「問題は、人々が長生きしていることではなく、あまりに早く引退していること」なのであり、元世界医師会会長のマイケル・マーモットの「老年期の貧困から抜け出す道の一つは、より長く働くことだ」も真理そのものであろう。
こうした問題意識に立ち、政界・官界は、日本での引退時期を遅らせようと努力している。このことは、人が若返ったという誠に寿ぐ出来事に即した誠に望ましい動きである。
さて、社会保障の中で最も大きな規模を持つ年金保険に関しては、そうした動きはそれでいい。つまり、ある人が生涯で受給できる年金給付総額を不変のまま、なるべく遅くから受給し始めてもらえるように繰下げ受給を勧め、できれば保険料拠出期間の延長ができるように雇用制度の改革を図る。こうして、年金を受給し始めた後の月額の給付水準を引上げる。
同時に人生100年時代においては、「より長く社会参加し続けよう!」という優先順位が極めて高い理念に照らし合わせて矛盾するようなメッセージ、つまり引退を促すメッセージを持つ在職老齢年金などは見直していく。これらは、この国の持続可能性を高めるために成し遂げなければならないことである(「年金を75歳までもらえなくなるって本当?――日本は受給開始年齢を自由に選択できる制度」参照)。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら