日本の医薬産業はなぜ米国に勝てないのか メディシノバ・岩城裕一社長兼CEOに聞く

拡大
縮小

実は、この病気は日本では患者数が1万人程度と少ないのですが、欧州、米国には各40万人の患者がいます。特に30~40歳代の女性に多いのです。また、日本では「再発寛解型で有望視されたが、海外の治験では進行型に効果があることがわかりました。すでに「脳の萎縮が縮小した」との素晴らしい報告も寄せられています。

学会の雑誌にも掲載され、NIH(米国立衛生研究所)やニューロネクスト(新しい治療法を支援する公的機関)といった公の機関からも高い評価を受けています。すでに、今年4月に公開されたアメリカ神経学会のデータ発表では「フェーズ2b治験」で統計学的な優位性が認められたとおり、「フェーズ2」は完了しました。

――ALS領域でも注目を集めていますね。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)についても説明しましょう。ALSとは、脳や脊椎の神経細胞にダメージを及ぼす進行性の神経変異疾患です。このダメージにより、特定の筋肉への指令が届かなくなり、筋力が萎縮し弱まっていきます。

病状は徐々に悪化し、全身の運動麻痺に至り、人工呼吸器などの補助が必要になります。診断されてからの生存期間は3~5年程度ともされています。今年3月に亡くなった英国の物理学者、スティーブン・ホーキング博士も長期間この病気を患っていたことはあまりにも有名です。

このALSでは現在、既存薬である『リルゾール』との併用で臨床試験を行っています。患者さんが既存薬の投与を止めるわけにもいかないので、併用という手法になっている面もありますが、良好な安全性、効果が認められています。将来的には単独での治験も行っていきたいと考えています。

「MN―166」の販売時期はどうなるのか?

――具体的にMN―166の上市(販売開始)の時期については?

臨床のステージが進む新薬の「MN―166」(開発コード)。進行性多発硬化症やALS治療薬として承認される日はいつになるのか(写真:筆者提供)

ALS領域でもやはりフェーズ2(臨床試験の第2段階)が終了した。フェーズ3(臨床最終試験)については、FDAと協議中です。

安全性はこれまでも認められてきており、ここからあまり時間は多くかからないと考えています。一方、進行性多発性硬化症領域では、あらかじめ決められている臨床試験などのルールにより、もう少し多くの時間が必要になります。

(9月25日付のプレスリリースではFDAからポジティブなフィードバックを受領したと発表。それによると、次の治験1回で十分で有り、それ以上追加の治験は必要ない可能性があるとされるほか、現時点では安全性に問題は認められないなどと評価されている。また上市申請に対してFDAはサポートを行う用意があるとされている )。

とにかく「一刻も早く患者さんに届けたい」と、私はいつも模索しています。今後を考えると開発パートナーの企業などがいたほうが、治験が一段と速やかに進むとは思いますが、単独でも今ある資金で行うことができています。

いずれにせよ、どんな形でも、MN―166で1つ認められれば、次の道(領域の拡大)が開けると思います。こういうたとえが適当かどうかはわかりませんが、競馬にたとえれば、最終コーナーをまわり、ホームストレッチ(最後の直線)に入ってきたところです。ゴールがどういう景色か、わかるところまで来たと考えています。

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