なぜ高学歴者はがんの「民間療法」に挑むのか がん患者に医者がどうしても伝えたい本音
たとえば、大腸がんの患者さんに昔から使われているAという抗がん剤があったとします。そこに新薬Bが開発された場合、「BはAよりも優れている」という証明がされないと使えるようになりません。証明とは「臨床試験」といわれる研究のこと。大腸がんの患者さん1000人を集めて、500人には従来のAを、そして残りの500人には新薬Bを使い、5年後に何人の患者さんが生存しているかを調べ、どちらの薬が優れているかを判断します。こういった大規模な研究をやって初めて新薬Bは市販されるのです。
試験は多くの人が監視していて、新薬を売りたい製薬会社がズルをすることはめったにできません(以前、血圧の薬でズルをした「ディオバン事件」が起きましたが)。
手術という治療法でも、かつては偉い外科医が開発した方法でやっていましたが、ここ十数年は、たとえば胃がん手術のリンパ範囲など、科学的に検証された方法が増えてきました。
一方、代替医療の中には科学的に検証されてきたものもなくはありませんが、科学的な検証がない治療がほとんどです。代替医療の多くは、経験的な積み重ねで行われてきました。
なぜ有名人は代替医療を選ぶのか?
この「代替医療」について、先日アメリカの研究者からこんな研究報告がありました。それは、「代替医療のがん治療は、病院の標準治療より生存を延長させない」というもの。簡単に紹介します。注)Use of Alternative Medicine for Cancer and Its Impact on Survival. Skyler B. Johnson, Henry S. Park, Cary P. Gross, James B. YuJ Natl Cancer Inst (2018) 110(1): djx145
対象になったのは乳がん、大腸がん、前立腺がん、肺がんの患者さん。このなかで、「代替医療を受けた280人」と「病院の従来の標準治療を受けた560人」の5年後の生存率を比べると、従来の標準治療を受けた人たちのほうが生存率が高かったという結果が出ました。代替医療を受けた人は、従来の標準治療を受けた人よりも2.5倍もの高い死亡のリスクがあったのです。
そして驚くべきことには、代替医療を選ぶ人は高学歴や経済的に恵まれた人々であったのです。
言われてみれば、最近の報道を思い返すと、がんで亡くなった有名人の多くが代替医療を一度は選んでいました。川島なお美さんが「金の棒でこする」というものでがん治療をしていたという報道を覚えている方もいるでしょう。
なぜこのようなことが起きるのでしょうか。
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