「メンツと礼」をタダだと思う人が落ちる地獄

発達障害の僕が発見した「見えない通貨」

そこで、商売人がコミュニケーションの価値基盤として利用する「お金」みたいなものが流通しているという仮定を考えてみました。

この、人間の間で流通するお金ではない何かを僕は「見えない通貨」と呼んでいます。あいまいな人間関係も、通貨にするとわかりやすくなる。そういう意味で名づけました。

「見えない通貨」とは何か?

たとえば、あなたは誰かにちょっとした親切をしてもらった。あなたは親切にしてくれた人を訪ねて「本当にありがとうございました。助かりました」とお礼をした。これはお金を介してはいませんが、ある種の取引が完了しているわけです。あなたは「お礼」という行動で「親切」という商品に対して対価を支払ったことになります。

もちろん、「親切にしてもらったからといってお礼をしなければならない」という決まりはありません。頼んだわけでもないことに何で礼を言わなければならないんだ、という考え方はもちろん一理あります。

しかし、問題はあなたの属する、あるいは属したいと考えている共同体が「お礼を言わない」という行為をどのようにとらえるかだと思います。これは、場所によっては「商品購入の対価を支払わなかった」みたいな罪科としてとらえられる場合も多いですね。

そう考えてみると、「見えない通貨」による決済はかなり便利です。「ありがとうございます。感謝します」で購入可能な商品って、個人差はありますが、思った以上に多いと思います。

「他人の親切に礼は言わない」というポリシーを実装して社会を生きていくということは、小額決済手段が1つ封じられたも同然ということになります。皆がPASMOでスイスイ抜けて行く改札に、毎回ガツンガツン引っかかることになるでしょう。

人間は他者に与えたものに対して対価が支払われなかったとき、大変強い怒りを覚えます。観察の結果、そう考えるのが妥当だと僕は思いました。

親切にしてやったのに礼がないという怒りは、僕がかつて想像していたよりはるかに深い。それは、商売人が商品を渡したのに対価が支払われなかったときの怒りにすら近いのかもしれません。個人差はあるだろうけれど、大体それくらいの怒りだろうと僕は想定しています。

僕は基本的に、自分が他人に親切にするときには特段対価を期待せずに生きてきました。「別にお礼を言われるつもりはないですよ。返したいなら何か役に立つもので返してよ」。そういう風にやってきました。だから、この辺は極めて雑に生きてきたと思います。

同様に、相手がしてくれたささやかな親切や好意に対して、僕は間違いなくきちんとした支払いをせずに生きてきました。そこに取引があったことにすら気づいていなかった気がします。

考えてみれば、人間関係の上手なあの人もこの人も、僕がプレゼントしたささやかな親切に如才なくお礼を返してくれました。それをしないでいれば、人間関係も破綻しますよね……。

もちろんこの「見えない通貨」は、その人が属するエリアによって違います。その業界でしか通じない専門用語やカタカナを使ってやりとりするといったこともそれに近いかと思います。

「空気の読める人」はこの辺を意識せずにやれるようですが、僕から見ると信じられない能力です。僕が30年かけて言語化した能力を生まれつき持っているのはズルいよ、というのが本音です。

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