《MRI環境講座》第4回 排出量取引制度は単なるマネーゲームか?
なお、EU-ETSは2008年より第二フェーズを実施しているが、ここでは第一フェーズと比べ1割程度割当量を圧縮し、2005年の排出量と比較しても2%少ない排出枠としている。さらに、2013年以降については、2008~2012年の平均排出量から毎年1.74%ずつ減少させた排出枠を発行し、2020年には欧州全体で1990年比20%削減を達成する目標を挙げている。また、排出枠の割当方法についても、今までのような過去の排出量に応じた割当ではなく、必要量の排出枠を企業自ら購入するオークション方式へ移行していくことを提案しており、排出量取引制度で指摘される問題点を一つずつ改善していきながら、将来にわたっても温暖化対策の柱に据えていることが分かる。
■排出量取引制度はマネーゲームか?
冒頭に戻り、排出量取引制度の是非について考えてみたい。排出量取引制度に対しては、金融機関や投資家のマネーゲームに使われるだけで実際の削減に貢献しない、といった批判が聞かれるが、排出量取引制度は温暖化対策として貢献しないのであろうか。以下に排出量取引制度に対する主な批判とそれに対するコメントを示してみた。投機の対象となり、実需と関係なく排出権価格が高騰する。
→確かに排出量取引制度では排出権は自由に売買できるため、原油や株と同様に投資の対象になり得るが、長期的な目標が示され、需給バランスが明らかになれば、投機的な動きは一時的には発生しても、制度が定着するにつれて長期的には安定してくる。
排出量の削減に貢献しない。
→前述した通り、排出量取引制度はまず制度全体の目標を設定するものであり、排出総量のコントロールは確実に可能。また、余剰排出権を売却できることから、各企業にとっては目標レベル以上に削減するインセンティブは規制や税金、補助金よりも大きい。
革新的技術開発を促進しない。
→補助金のように革新的技術に直接的な経済的インセンティブを与えないが、企業が長期的な戦略として技術開発を取り組むことは期待できる。また、技術開発には補助金制度など他の制度を補完的に活用することも可能である。
以上、見てきたような排出量取引制度に対する批判は、制度設計における不備に起因するところが大きく、制度設計を慎重に行うことで防ぐことが可能とみられる。排出量取引制度に限らず国の制度設計においては様々なステークホルダーが関与することによって制度が歪められ、結果として効率的な制度とならないことが多い。排出量取引制度が温室効果ガスの削減を促進し、日本を低炭素社会に導くものとなるかは今後の制度設計に委ねられている。
次回は、カーボンオフセットと国内クレジットについて解説します。
株式会社三菱総合研究所
環境フロンティア事業推進グループ/環境・エネルギー研究本部
環境・エネルギー研究本部は、環境・エネルギーに係わる様々な専門分野を持つ約100名の研究員により構成。その前身の地球環境研究本部は、リオ・サミットの前年である1991年の創設以来、国などにおける環境関連政策、制度設計の支援、関与など中心とし幅広い実績を持つ。
また、企業における環境問題への取組の浸透、拡大等が進む中、先進的な環境関連の事業、ビジネスを支援する機能として、環境フロンティア事業推進グループが2007年10月に設立。電話番号は、03-3277-0848
真野秀太 研究員
環境・エネルギー研究本部地球温暖化対策研究グループ
排出量取引制度や算定・報告・公表制度等の国の制度設計の業務や、京都メカニズムに基づくプロジェクト発掘・形成に携わる一方、企業への温暖化戦略のコンサルティング業務を行う。
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