《MRI環境講座》第4回 排出量取引制度は単なるマネーゲームか?

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《MRI環境講座》第4回 排出量取引制度は単なるマネーゲームか?

7月29日に閣議決定された「低炭素社会づくり行動計画」の中で、今年の10月を目処に試行的実施を開始すると初めて排出量取引制度の具体的な導入に向けた発言がなされるなど、排出量取引制度が温室効果ガス削減の有効な手段として注目されつつある。一方で、産業界の中にはマネーゲームにつながる恐れがあるとしてその有効性に疑問を持つ企業も少なくない。今回は、排出量取引制度について、その手段としての機能と導入に向けた課題について考察してみたい。

■排出量取引制度とは

 まず、その是非を議論する前に、排出量取引制度について簡単に説明しよう。排出量取引制度とは、国や企業が温室効果ガスなど環境汚染物質の排出枠を定め、その枠を上回る排出する国や企業と、逆に枠を下回る国や企業が、排出権の売買をすることで汚染物質の排出量の総和を低減させる手法である。

 排出量取引制度には、キャップ&トレード型(C&T型)とベースライン&クレジット型(BL&C型)の二種類がある。

 C&T型とは、制度全体の排出量の上限を定め、その排出枠を規制対象となる企業に分配するものである。予め、制度全体の排出量の上限を定めるため、排出量を確実にコントロールすることができる。また、企業への配分方法としては、過去の排出量などに基づいて配分するグランドファザリング方式(無償割当)と、全ての排出枠の購入を求めるオークション方式(有償割当)がある。代表例としては、EUで2005年から実施されている欧州連合域内排出量取引制度(EU-ETS)がある。

 一方、BL&C型は、あらかじめ排出量の全体枠を定めずに、プロジェクトを実施しなかった場合と比較した削減量に対してクレジット(排出権)を発行するものである。温室効果ガス削減の手段として定めた京都メカニズムの一つ,、クリーン開発メカニズム(Clean Development Mechanism:CDM)は削減目標を持たない途上国において温室効果ガス削減プロジェクトを実施し、削減量をクレジットとして発行する仕組みで、代表的なBL&C型である。

 日本は、京都議定書の下で排出量の絶対量での削減が求められており、排出総量をコントロールするためには、BL&C型だけでは不十分で、C&T型の導入が必要である。

■「取引」のみならず「目標設定」も重要

 さて、排出量取引制度について議論される際、とかく「取引」の部分ばかりが注目されるが、もう一つ重要な機能として、「目標設定」を忘れてはならない。排出量取引制度を導入する際には、制度対象者全体での目標設定(総排出枠)と、制度対象者毎の目標設定(排出枠の割当)の2点をあらかじめ定め、その達成に向けた柔軟性措置として企業間の取引が認められているのである。従って、日本の場合、京都議定書の下で「1990年度比6%(の温室効果ガス)削減」という目標があるため、これをベースとして排出量取引制度全体の目標設定を定め、その後、各企業への割当量を定めることになる。

日本の目標と企業に対する排出枠割当の関係
 欧州で実施されているEU-ETSでは、2005年から2007年までを第一フェーズとして域内排出量取引が実施されているが、2006年4月に排出枠(EUA)の余剰が判明して以降、価格は下落を続け、最終的に価格は0.1ユーロ以下というほとんど無価値となった。これは、第一期間は試行的な位置付けであり、導入することが優先されたために排出枠が過剰に配分され、最終的に供給が需要を大幅に上回ったことと、第一フェーズのEUAはあくまで第一フェーズのみに有効なものとされたため、2007年以降は価値を持たないものであったことが原因である。この事例を見ても、排出権の価値を決定づけるのは、排出権の需給であり、需給は最初の目標設定によるところが大きいことが分かる。

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