そんなことより、今の日本経済における課題はいっぱいあるだろう。貿易戦争はどんなインパクトをもたらすのか、社会保障制度の持続可能性をどう見るべきなのか、賃金と消費と物価の動向を詳しく調べるのもいい。何だか肝心の問題を避けているように見える。
いや、官庁エコノミストたちが本気で日本経済の心配をしているのなら、来年に予定されている消費増税の影響を予測するとか(きっと財務省が嫌がるだろう)、「黒田緩和」の副作用を分析するとか(日銀が悲鳴を上げるだろう)、毎年のように量産される「成長戦略」の進捗状況をチェックするとか(全省庁を敵に回すだろう)、もっと果敢に挑戦してもいいのではないか。
かつての白書は「正論」を述べていた
かつての経済白書にはそういう気概があった。例えば1993年の経済白書は、「バブルの教訓と新たな発展への課題」と題し、バブルの発生と崩壊の過程を検証している 。当然のことながら、白書は過去の金融政策と財政政策を批判することになったし、そのために政府内で激論が交わされたことは想像に難くない。しかし当時の景気が急速に悪化する中にあって、バブルの総括は避けて通れなかったし、白書が述べていることは「正論」であった。1993年白書のむすびにある下記のくだりを、いったい誰が否定し得ようか。
われわれは、こうしたバブルの歴史的教訓として、バブルの経済的コストがいかに大きいものかを認識した。バブルは発生してしまえば、必ず崩壊し、その過程で経済に打撃が及ぶことは避けられない。したがって、経済政策の運営に際しては,バブルの発生を未然に防止していくことが重要である。
残念ながら現在の経済財政白書には、ここまで踏み込むような迫力は感じられない。2001年の省庁再編により、首相をトップに政権の重要政策を推進する内閣府という組織が創設され、経済企画庁はその中に組み込まれた。今や内閣府と言えば複数の大臣を擁し、経済財政諮問会議の事務局であると同時に、規制改革から少子化対策、地方創生に防災、食品安全、果てはクールジャパンまでを担当する「スーパー多目的官庁」になってしまった 。
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