両親を責めるような言葉をほとんど口にしない昌史さんですが、本当は母親に対しても、「行動を起こしてほしかった」という思いが少なからずあるのでしょう。
親に離婚してほしいと思ったことはないのかと尋ねると、それはないと言います。姉はずっと「次に父親が再飲酒したら離婚してほしい」と母親に言っているのですが、昌史さんとしては、もしいま家族が縁を切れば、父親がたちまち再飲酒に至り命を落とすことがわかっているので、それは言えないと考えているのです。
もっと危機感をもったほうがいい
昌史さんは世間に対し、「もっとアルコール依存への危機感をもったほうがいい」と話します。
「みんなお酒に対して、すごく寛容ですよね。それを僕は、とても怖いことだと感じています。たとえば飲酒運転をしてしまう人や、泥酔してしまう人って、自分の意思で飲むことを止められないわけだから、アルコール依存に至る確率はすごく高いと思うんです。そういう人たちがもっと早く、専門医につながれるといい。
アルコール依存の治療は、内科医では無理なんですよ。内科は血液検査の数値がよくなったら退院させざるをえないけれど、それでは問題の根本は解決しません。
でも専門医につながるのも、すごくハードルが高いことなんです。うちもアルコール依存の治療で有名な、近隣の精神病院に行ったんですけれど、父親が頑なに拒否して、診察室の戸が開いてもどうしても中に入ってこない。そういう方は、おそらく決して少なくないと思います」
認知症などでも、よく本人が症状を認めずに医者へ行くことを嫌がり、治療が遅れてしまう、といった話を聞きますが、アルコール依存についても同様のところがあるのでしょう。
必ずしも本人が専門医まで足を運ばなくても、何かしらの形で専門医につながれるような仕組みがあればと感じますが、難しいのでしょうか。
「父親に関しては、お酒さえなければもっとまともな人のはずなのに、と信じたかったし、信じたい思いはいまでもあります。いまはお酒が止まっている状況ですけれど、気持ちは戻らないですからね。小さい頃の、電車の運転手としての父親への憧れの感情は、帰ってこない。いまに至ってはもう、自分のほうが保護者みたいな感覚です(苦笑)」
せつない言葉です。店を出ると外はすでに蒸し暑く、顔を上げると、初夏の青空が広がっていました。
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