昌史さんら家族が、父親のアルコール問題によって受けた影響はたくさんありますが、最も大きいのはお金のことです。現在ご両親は、自分たちの生活を維持できるだけの経済力がありません。生活費や家のリフォーム代など、一緒に暮らす昌史さんが担っています。
「うちの父親はおじいちゃんが建てた家で生活してきて、“家をさわっていない”んです。家を建てた人でもないし、リフォームもしていない。一般的に考えて、そこのウエイトって大きくて、何千万も(預貯金が)変わってくるじゃないですか。
それだけの負担がなかったにもかかわらず、いま残っていないんですよ。全部、お酒やそのための付き合い、飲酒運転で潰した車の買い替えや、いろんなもんに消えている。
冷静に考えたら、家族に将来こういうことがあるので、このぐらい確保しておこうとか、そういう計画があると思うんですが、それができない。おそらくプランを持っていたとしても、それに乗ることができないんです」
55歳で早期退職したことからも、プランのなさはうかがえます。当時、昌史さんは高校生。入学した頃には早期退職が決まっていたため、大学進学は無意識のうちにあきらめていました。高校を卒業して社会人になったときは「親には頼れない、という意識がすごく強かった」と言います。
以前結婚を考えた際にも、父親のアルコール問題がネックとなりました。
「彼女を親の前に連れてきたときにどういう結果になるか、目に見えているんですよ。親が醜態をさらすのは、見ていてうれしいものではない。彼女には(父親のことを)話したんですけれど、でも彼女のご両親や親せきの方がどう思うかと考えると……。やっぱり会わせたくないし、存在を知られたくない。そこをどうやって乗り越えたらいいのか、と思います」
唯一よかったと思う点は、父親を反面教師にしてこられたこと。「ああいう父親にはなりたくない、という意識が強かったので、自分でいうのもアレですがまじめな性格なんです」。昌史さんのメールの文面からも、それはよくわかります。
問題の本質は「思考が止まること」
お酒をやめてから、父親は昌史さんとともに「断酒会」に通ってきました。断酒会というのはアルコール依存の本人と家族の自助会です。全国に支部があり、参加した当事者はそれぞれ自分の体験談を話し、互いに耳を傾け合います。
昌史さんは、自分自身の経験や、断酒会で聞いたさまざまな話から、「あきらめてしまうことの怖さ」を感じてきました。
「いろんなものに打ちのめされていくうちに、いろんなことをあきらめていく。そういうところって、大いにあると思うんです。そのあきらめていく過程のなかで、いろんな選択肢が失われていき、どんどんどうにもならなくなっていってしまう。
問題の本質は、思考が止まってしまう、というところだと思うんです。うちの母親がまさにそうだったんですけれど、問題があることがわかっていても、どう改善していくか、という行動に結び付かない。
いまはネットで調べれば、いろんな解決策につながる情報がいっぱいあると思うんですよ。でも、そこにうまくつながらないとか、それを選べない状況で、すごく苦しい思いをしている人はいっぱいいるんじゃないかと思います。その解決策に取り組んだ結果、本当に状況が改善すると信じられるかどうか、というのもありますよね」
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