──この本は西郷隆盛と吉田松陰の「2人のジェダイ」についてから書き下ろされています。
実は私は「スター・ウォーズ世代」。『スター・ウォーズ』には、西欧にない考え方を映画の中に生かすためなのか、研究対象の中国思想の気(フォース=銀河をつかさどるエネルギー)という言葉が盛んに使われている。
ジェダイ(秩序と平和の守護者)はいわば志士だし、彼らが戦った相手、もしくは作り上げようとしたものがエンパイア。そして暴力やテロリズムに訴えるようになってしまい、ダークサイドに落ちたりもする。この4つのキーワードを遊びの精神から各章タイトルに割り振ってみた。
松蔭は独善的だった
──西郷については「敬天愛人」に絡む話が中心です。
西郷はあるときから敬天愛人を座右の銘にし、好んで揮毫したという。ただ、この言葉の由来について本人は語っていない。関連する記述は、死後に出版された聞き書き本『南洲翁遺訓』の中にある。1868年に教育者の中村正直が「敬天愛人説」という文章を書き、これが当時よく読まれ、西郷も知っていたはずだ。
──松陰もジェダイだった?
彼はむしろ偏った見方をする人だ。自分の信念を貫くために、それに従わない人たちを間違いと決め付ける。対話や議論を求めていくのではなく、書物や教えを通じて得たものに基づいて作り上げた自身の信念こそ正しいと突き進んでいく。
儒教の古典『孟子』の中にある言葉、至誠を根拠にして、誠を尽くせば皆わかってくれるはず、と独善的に事を運ぶ。思想史的に位置づけ直すと、兵学をあずかる形で養子に行ったことから、責任感を持って軍学を身に付け、その結果として、正真正銘のテロリストになっていった。
──教育者としての評価も。
玖村敏雄の著作『吉田松陰』が1936年に刊行され、その中で教育者として立派だったとの像が打ち出された。これが広く読者に浸透したようだ。戦前における尊皇派、天皇崇拝者としての松陰像が封印され、教育者、人格者としての松陰という像が作られて、今に引き継がれている。
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