39歳「離婚」の親権争いに敗れた男が見た真実 マルチと浮気にはまった妻との調停の果てに

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「お願いだから、子どもに会わせてほしい。何かあったら、子どもたちに経済的にも援助してあげられるから!!」

そう懇願すると、里美さんはあっけなく要求に応じた。8年ぶりに飲食店に現れた子どもたちは、離れ離れになったときの乳飲み子ではなく、しっかりとした子どもに成長して、キラキラして、まぶしかった。

上の子は小学6年生で、思春期に入ったばかりでやんちゃさが目立っている。大きくなったなぁ、ちゃんと育ててくれたんだと、大地さんは、素直にそう思うと感極まった。

「子どもたちは僕にすごく自然に接してくれましたね。本当に、普通に家族みたいな感じ。というか、家族だったんです。それを思うと、この8年間は本当になんだったんだろう、不毛な時間を過ごしていたと思わざるをえませんでした」

そう言って、大地さんは、あふれ出る涙をぬぐった。

離婚調停の9割以上が親権は母親

大地さんは、保育士を辞め、現在は司法書士として、事務所を立ち上げて活動している。

司法書士の資格を取ったのは、自分自身が、法的な知識に耳を傾けてもらえる地位にないと、何を言うにも説得力がないと感じたからだ。離婚に関しても、あまりにも無知で悔しい思いをした。保育士を辞めて3年間、死に物狂いで勉強をして、資格を取った。大地さんは、これまでの経験を通じて、子どもと自由に面会ができなかったというつらい思いが根底にある。

「今となっては、元妻が悪かったとは思わないです。彼女は彼女で自分を守ろうとしたんだと思いますね。だから、恨みとかそういう感情はないんです。ただ、子どもとの面会が自由にできなかったのは、ずっと、トラウマとして僕の心に影を落としているんです。子どもには、一生会えないんじゃないかと思っていた。それを考えると、やっぱり社会もおかしいと思います。

ママが子どもを取り上げられる悲しみは耐えがたいと思うんですが、パパもそれは一緒なんですよ。なのに、公的機関のジャッジは偏っていると思うんです。男女平等にみてくれない。それには、本当に今でも、憤りを感じているんです。ただ、そんな社会は少しでも変えていければと思っています」

父親が親権を取れる望みは少ない(筆者撮影)

離婚問題に詳しい元裁判官の男性によると、「母親の親権がデフォルトで、父親については問題点をあげつらうのが慣例となっている」という。「建前では、子どもの親権は性別ではなく、どちらが適切に養育できるかだが、明確にそこには男女差別がある」と断言する。今もなお、母親が子どもを虐待しているなど、よほどのことが明らかにならないかぎり、父親が親権を取れる望みは少ないのが実態だそうだ。

裁判所の統計によると、離婚調停(またはそれに代わる審判事件)で子ども親権が母親に渡るのがほとんど。父親に親権が渡るのは1割以下だ。

保育士でもあり、イクメン世代の走りである大地さんが離婚で感じた憤りと理不尽は、現代社会の家族のあり方が大きく変化している中で、個別のケースに真摯に対応できていないずさんな離婚調停の結果でもある。これも離婚というドラマの過酷な現実の1つなのだ。

菅野 久美子 ノンフィクション作家

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かんの・くみこ / Kumiko Kanno

1982年、宮崎県生まれ。大阪芸術大学芸術学部映像学科卒。出版社で編集者を経て、2005年よりフリーライターに。単著に『大島てるが案内人 事故物件めぐりをしてきました』(彩図社)、『孤独死大国』(双葉社)、『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』(毎日新聞出版)『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』(KADOKAWA)『母を捨てる』(プレジデント社)など。

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