”雑草集団”を大学日本一に鍛え上げた男

上武大学・谷口監督のあえて差をつける指導法

補欠から日本一の投手に成り上がったのが、4年生の横田哲だった。3年時までは実力的にいまひとつで、谷口が「使い物にならなかった」と振り返るほどだ。そこからエースに登り詰めた理由には、目的を意識しながら練習してきたことが挙げられる。

下級生の頃から、横田は打撃投手の役割を課された。打者と対峙する実戦形式の練習は、投手にとって様々なメリットがある。例えば、どのコースにボールを投げれば、打者は打ち損じるのか。どの変化球が、相手にどれだけ通じるのか。そうした感覚を磨くと同時に、投げ込むことでスタミナを養うこともできる。

「バッティングピッチャーで100球投げて何かをつかんだら、ブルペンで20、30球投げてみろ」

上だけを見ていては、人間の幅が狭くなる

そう言われた横田は実戦練習で磨いた感覚をブルペンで研ぎすまし、実力をつけていく。ただ、彼には性格的な弱点があった。そこに気づかせたことが、飛躍への転機になる。

今年春のリーグ開幕前、横田は社会人野球の強豪・新日鐵住金鹿島と行った練習試合で先発した。だが10点以上奪われてKOされると、谷口は遠征先の茨城県鹿嶋市から群馬県伊勢崎市の寮まで、横田を一人で帰らせた。

「横田は気が強く、『投げたい』と考えるばかりで自分を振り返らない。電車代を自分で払い、バスを乗り継いで帰る途中で自身を見つめ直してほしかった」

社会人との練習試合は、学生にとって就職活動の一環でもある。貴重な場でふがいない投球をした横田に、谷口は猛省を促した。自身と向き合った横田は昨秋のリーグ戦終了後に投げ始めたチェンジアップに磨きをかけ、エースに登り詰めていく。春のリーグ戦で8勝を挙げてMVPに輝くと、その後の全国大会では4勝を飾りMVPと最優秀投手賞の2冠に輝いた。

「行け行けドンドンだったヤンチャ者が精神的に変わった。高校の監督に優勝報告するなど、気配りをできるようになった」

ただ、横田のようなサクセスストーリーを描ける補欠は数少ない。ほとんどの学生が「レギュラーになりたい」と野球部の門をたたくが、ベンチに入れぬまま、4年間を終える者が大半だ。そうした人材を、どうすればチームの戦力にできるのだろうか。勝利するためにはグラウンドに立つ選手ばかりでなく、マネジャーや用具係、練習をサポートする人間も必要だ。補欠にそういった役割を引き受けさせるため、谷口はこんな話をしている。

「野球って、裏と表があるでしょ? 占いにも陰と陽があり、1日には昼と夜がある。人間にも表と裏があるだろ? 人が亡くなったら悲しいと思うけど、自分じゃなくて良かったと思う気持ちもある。それは当然のことだよな。野球のプレーも同じで、いいプレーも悪いプレーもある。そういった両面をわかってこそ、中間を保てるんじゃないのか? 上だけを見ていたら、人間の幅が狭くなると思わないか?」

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