”雑草集団”を大学日本一に鍛え上げた男 上武大学・谷口監督のあえて差をつける指導法

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「自分は絶対にできる」と思わせる

表舞台で輝く者がいれば、裏で支える人材も欠かせない。表裏一体となって、初めて組織は成功に向かうことができる。

春の全日本大学野球選手権でチームを救ったのは、4年間を控え選手としてすごしてきた清水和馬だった。今春のリーグ戦で打席に立ったのは、わずか1打席。だが全国大会の準決勝前日、グラウンドで最後まで汗を流している姿を見て、谷口は「こいつだ」と勝負どころで起用することを決める。清水は裏方としてチームを支えてきた一方、自身の練習でも手を抜かず、谷口は「絶対にお前をベンチメンバーから外さない」とチームの前で話すほどの選手だった。

迎えた準決勝の明治大戦で1点を追いかける7回、代打の清水にバントを命じると、大会初打席だったにもかかわらず、見事に成功させた。難しい場面で冷静に仕事を果たしたことを評価し、亜細亜大との決勝ではさらにプレッシャーのかかる局面で起用する。1点リードされた6回、1死満塁で代打に送ると、逆転満塁本塁打でチームを優勝に導いた。

普通なら緊張でカチカチになるような場面だが、谷口は「清水ならやってくれる」という確信を抱いていた。その裏には、こんな根拠がある。

「練習をやり込んだ子でなければ、試合で感情をコントロールできない。裏付けがないと、失敗ばかり考えてしまう。ミスしてバットを投げつけたり、怒る子もいるでしょ? その感情をいかに押し殺し、『自分は絶対にできる』と思えるか。いわゆるゾーンと言われるところに、いかに自分を持っていけるかだと思う」

全員にリーダシップを持たせる

横田や清水は成功例だが、最後まで陽の目を浴びない選手も少なくない。上武大学ではそうした選手たちがなぜ、自分の欲望を押し殺し、チームのサポート役に徹しようとするのか。

「そういう子には例えば、トレーニングの知識を学ばせて、1、2年生の面倒を見させている。ベンチに入れるのは25人だけど、それ以外の選手にも役割がある。それぞれの目標を達成していけば、腐ることはない。野球が下手なら、他のことでリーダーシップを取らせてやればいい。リーダーシップを取る上では、人間性よりも専門知識が大事。目標をクリアーする過程で、誰もが自信をつけていく。春の優勝は、全員にリーダーシップを持たせるやり方が上手くいったからだと思う」

世の摂理で、人間の能力には差異がある。だからこそ、社会には“格差”が生まれるのだ。

だが、陽の当たる道で生きる者がいれば、裏方として能力を発揮する者もいる。人材をマネージメントする側にとって、大事なのはその見極めだ。

谷口が各選手に生きる場所を用意したからこそ、上武大学は初めての栄冠に輝くことができたのだろう。

中島 大輔 スポーツライター

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なかじま だいすけ / Daisuke Nakajima

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。2005年夏、セルティックに移籍した中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に野球界の根深い構造問題を描いた「野球消滅」。「中南米野球はなぜ強いのか」(亜紀書房)で第28回ミズノスポーツライター賞の優秀賞。NewsPicksのスポーツ記事を担当。文春野球で西武の監督代行を務める。

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