(第19回)【2010年新卒採用の展望】経済危機は中下位校の文系学生を直撃

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 さて、2010年採用についてだが、水膨れした文系学生の受け皿となりうる業界の採用意欲が急激に低下する可能性についてはまったく否定しない。就職を支援する大学側も、文系・理系というおおまかなカテゴリーでくくった支援をしていると大きな火傷を負う危険があるだろう。
 事実、上位大学といわれる学生であっても、学生の意識は一律ではなく、積極性の有無で結果がまったく違うことになるのは皆さんもよくご存じのはずだ。
 景気の後退により、企業の採用姿勢が慎重になると、メーカーを中心に業界に関係なく採用ニーズが高いプレミアム学科から選考がスタートする。そして、ある程度充足すれば、大手企業は数を追わずに採用を実質的に終結。中下位校の文系学生まで採用枠が残らないという事態は十分に考えられる。文系学部を多く抱える大学の就職指導はまさに正念場だ。09年採用のように学生の大手志向は相変わらず、という状況が報告されるようでは、冒頭の御手洗会長の言葉もぐっと真実味を帯びてくる。

●10月14日、日本経団連が倫理憲章の声名をリリース

 2008年7月9日、国立大学協会、公立大学協会、日本私立大学団体連合会の大学3団体が日本経団連など137の企業団体に対して、「採用選考活動の早期化の是正に関する要請について」という要請書を提出した。2009年採用との違いは、要請書を提出した時期がの非常に早かったこと。そして、今回の要請書は旧帝クラスの国立大学の一部技術系教授が中心となって取りまとめを行ったことをあげておきたい。
 7月以降最近までこの要請書に対して、主だった対応がなかったが、要請書の提出から3ヵ月後の10月14日、日本経団連はようやく「大学卒業予定者・大学院修了予定者等の採用選考に関する企業の倫理憲章」を発表した。日本経団連ホームページによると、今回発表された倫理憲章における主な変更点は以下の2点。
・表題から「○○年度」という表現を削除し、次年度に限らず採用選考活動の早期化自粛に通年的に取り組むべきであることを明確にした。

・これまで使用してきた「採用選考活動」という言葉は、一般的には企業の採用計画の広報や説明会を含む広い意味で使われている一方、「選考活動」は応募者を選抜する活動として使われている実態を踏まえ、「採用選考活動」という表現を「選考活動」に変更し、企業が自粛すべき活動を明確にした。
というものである。
 日本経団連に電話取材を行ったところ、「採用選考活動」とは、いわゆる「採用PRとか採用プロモーション」を意味する広報活動のことであり、「学業の妨げにならない正確な情報を提供するものであれば、早期は問題ではない」との解釈をしているとのことだ。次に「選考活動」だが、これは「読んで字の如く、選考に関わる活動を意味しており、これついては4月1日以降とする」ということだ。昨年度は倫理憲章に院生を含むかどうかで、見解が分かれた。一部の業界からは「院生を含むのであればもっと早い時期から議論を深めるべき」という意見も噴出した(もちろん、その他にも反対意見はたくさんあったが)。
 以上を踏まえて最後に2010年以降の2~3年間で構築すべき、プレミアム学科の新卒採用におけるポイントを三つあげておきたい。
1 インターンシップの活用
2 学事日程を刺激しない学内での採用選考活動への取り組み
3 選考に絡まないという大義名分を押し出せるOB・OGのレベルアップと活用
 1~3をご覧になって「当たり前」だと思われた方も多いと思うが、この三つは採用活動の方針であり、「どう取り組むか」というオペレーションは次の段階である。今後はこれら三つの活動方針を踏まえたプランニングやオペレーションに対する提案能力を持つパートナーの存在は欠かせない。
 新卒採用において「選択と集中」をキーワードとするならば、一斉にオープンする就職ナビから取り組む「採用選考活動」には限界がある。力強く、経験とノウハウに長けた採用パートナーはいるか。2010年採用を走りながら、情報の収集だけは怠らないでいただきたいと思う。倫理憲章の表題から年度が外されたということは、「採用選考活動」を「選択・集中」させる大学に受け入れられやすい採用戦略を、各社が工夫し構築すべき節目の年として受け取るべきなのではないだろうか。
採用プロドットコム株式会社
(本社:東京千代田区、代表取締役:寺澤康介)
採用担当者のための専門サイト「採用プロ.com」を運営。新卒、中途、派遣、アルバイトなどの採用活動に役立つニュース、情報、ノウハウを提供している。

HRプロ株式会社

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