「お前を干してやる」が何とも愚かすぎるワケ 「おじゃる丸」声優のNHK告発から考察する

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正直、この類の発言は話半分で聞いたほうがいい。仮に相手が「あいつには一切仕事を頼まないでください。あいつは非常識で恩知らずですから、御社にも害をなします」なんて吹聴したとしても、よほどの実力者でもない限り、言われたほうは戸惑うだけである。

実際、今回紹介した人たちも誰1人として業界から干されてはいない。その発注主との縁は切れたものの、業界内ではむしろ以前よりも活躍しているように見える。一方で、恫喝をした人々がどうなっているかといえば、その当時と同様にパッとはしていないという。

発注主から脅しを受けたときの対応策

もし「業界から干す」と言われて悩む方がいたら、ネットでその経緯をありのままに発信することをおすすめしたい。今回の「おじゃる丸」の件でもそうだが、ネットを利用する人たちはこの手のパワハラ案件では味方になってくれることが多い。

発注主から「あいつは何でもネットで告発する面倒臭いやつだ」と思われるリスクを恐れるなら、そんな相手とは付き合わないでいい。今はどの業界も人手が足りないのだから、仮に特定の1社や人物から嫌われたとしても、その代替となる会社を見つけやすい状況にある。

正直、芸能界を除けば、どんな大会社の社員であったとしても、1人のフリーランスを干すほどの影響力もメリットもない。だから、「干してやる」と言われたとしても、そこまで深刻にとらえる必要はない。よほど心配なら、同じ業界で自分よりも長く働く先輩に相談してみるのもいい。おそらく「そんなことで実際に干された人間は知らない」「別に心配しなくてもいい」と言われるだけだろう。

ちなみに、「テープ起こしができないなら辞めろ」と言われた週刊誌記者のBさんだが、彼女は恫喝した2人の社員よりも上の立場の編集長に一応謝罪をした。

「社員の○○さんと××さんの依頼に応えなかったため、『辞めろ』と言われるほど怒られてしまいました。私が悪かったです。すみませんでした」と本当は自分が悪くないにもかかわらず、敢えて自分が悪いということにして伝えたところ、逆に編集長からは謝られる結果に。

彼女は「より上の人に報告できるなら、『干してやる』という言葉は、言ってきた相手を追い詰める武器になるのかもしれません」とも語っている。

中川 淳一郎 著述家、コメンテーター

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なかがわ じゅんいちろう / Junichiro Nakagawa

1973年東京都生まれ。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライターや『テレビブロス』編集者などを経て、出版社系ネットニュースサイトの先鞭となった『NEWSポストセブン』の立ち上げから編集者として関わり、並行してPRプランナーとしても活動。2020年8月31日に「セミリタイア」を宣言し、ネットニュース編集およびPRプランニングの第一線から退く。同年11月1日、佐賀県唐津市へ移住。ABEMAのニュースチャンネル『ABEMA Prime』にコメンテーターとして出演中。週刊新潮「この連載はミスリードです」他連載多数。

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