米朝首脳会談を批判する人に欠けている視点 それでも行われたことに意義がある

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歴史的な首脳会談。果たして成果があったのか、なかったのか(写真:ロイター)

結局、答えを出すのは外交なのだ。核外交にビッグバン理論は存在しない。もし、朝鮮半島にさらなる平和への進展が見られなければ、何もかもが進んでは戻ったことになってしまうと考えれば、南北首脳会談、そしてシンガポールで行われた米朝首脳会談そのものも 、たとえ味気なかったとしても、最悪でも、新たなよきスタートだったと言える。あるいは、少なくともターニングポイントではあったのだろう。

トランプ大統領の「敗北」を語るのは簡単だ。合意は不明確なうえ、非核化についての具体的な言及がなされていないという批判のことだ。しかしそうした批判は、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が核と弾道ミサイルの実験を停止していることや、拘束された米国人の帰還、弾道ミサイル実験場の閉鎖、そして新規に開設することなく、大規模核実験設備を閉鎖したことを無視している。

米朝戦争の可能性は50%ともされていた

数カ月前に北朝鮮がまだ核実験を行い、暗い戦争の恐怖を引き起こしていたことは忘れてしまわれがちだ。米朝首脳会談を「失敗」と決めつけるのは、より詳細な合意内容と、過去にはすべての合意が実現できなかった現実を無視しているといえる。

数カ月前、米国国務省の北朝鮮の担当特別代表ジョセフ・ユン氏の退職が「トランプ大統領は朝鮮外交の中心人物を欠いている」という一連の批判のきっかけになった。同様の推測は、韓国・ソウルの米大使の不在に対しても向けられている。国務省は弱り切っている(「トランプ政権は他国との交渉能力を失っている」とあるジャーナリストは書いている)。外交問題評議会は、朝鮮半島での戦争の確率は50%だと分析していた。

朝鮮半島での成功は、冷戦時代のように戦争が徐々に意識から遠のく状態が続くことによって測られるだろう。シンガポールでの成果は、これから繰り返し会談を行うことを約束したことである。最も控えめな2015年のイラン合意(実際には核兵器とは関係がない)でさえ、交渉に20カ月を要した。

終戦協約には数年間の取り組みが必要で、両政府が幅広く交流しなければならない。さらに、次のステップをさらに目指すことは(金委員長が首脳会談後に核を封じ込めて廃棄すると考えた人がいただろうか)これまでのこととは関係ない。不平を言っている人たちはデートをしたことはあるのだろうか。

シンガポールも、今回のように誤った比喩をやめる時だというシグナルを送っている。トランプ大統領と金委員長は狂人ではない。彼らの時に好戦的な言葉遣いはただのレトリックでしかない。どちらも融和的な前進と、国内の強硬派の聴衆に向けた荒っぽいジェスチャーとの間のバランスを取る必要がある。だから、ツイートやつまずきもあるのだ。

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