飯舘村から考える日本の政治の欠陥と処方箋 黒川清氏が田中俊一氏を訪ね、話し合った

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黒川:でも実際には、大きな学校を造って、予算を全部使ってしまうわけです。いままでのように、予算があったらそれを使わないといけないという発想のようですが、自分たちの頭で柔軟に考えてはどうですか。国費の無駄遣いはあちこちいくらでもある。

福島のどの自治体にも共通の課題

田中:山木屋の学校も飯舘の学校も、これから維持するのが大変です。山木屋の小学校は、低学年の子どもがいないそうで、これから、子どもたちが増える見通しが立てにくい。高齢者と子どもたちの問題は、非常に深刻です。福島のどの自治体にも共通の課題です。

飯舘村には特別養護老人ホームがあります。入所を希望するお年寄りは多いのですが、介護をする人が足りません。全国的にも足りない状況で、飯舘に来て働いてくれる人がなかなか確保できません。大学と組んで、学生を確保できないかなどと相談をしています。介護の実務をしながら、飯舘のよさを知ってもらい、気に入ったら実際に移住してもらうというような仕組みが必要です。

黒川:メディアは繰り返し、こういう問題を取り上げてほしい。国会事故調でもメディアのだらしなさを繰り返し指摘しました。省庁と自治体できちんと話をして、こういうニーズにどういう対応ができるか、どうやって最適化するか、方法を考えては。

田中:わたしも、飯舘村のような田舎の山の中で育ちました。子どもたちに生きる力や知恵を身に付けてほしいと考えています。数学や物理ができる人はたくさんいます。それだけではなくて、飯舘のような難しい問題のある地域であればこそ、たくましい人間に育って、生き抜ける知恵と力を持った子どもを育てたいというのが願いです。そのため、5月22日には、早野龍五先生(東大名誉教授)を招いて、天体の特別授業を行ってもらいました。こうした取り組みも始めています。

黒川:教科書を読んで、偏差値の高い大学に入るのがゴールだと思っている人が多いかもしれませんが、それだけではダメなんです。たとえば、医者は、いくら本を読んでも、実際に患者さんを診なければ、疑問が出てこない。医師の仕事は、まずは謎解きです。患者さんを診てから、教科書を読むと、必ず身に付きます。知りたい理由があるからです。知識だけで勝負できるのは、クイズ番組だけ。なぜ、なぜ、と問いかけることが重要です。

田中:こういう田舎にいるからこそ、人生を生き抜く力を養いたい。歴史を見たって、一生、なにも起きない時代なんてないんです。「飯舘なんかにいて大丈夫か」とか、「放射能で汚れているから来るな」とか言われることもあるようです。そういうことに対して、「なにを言ってるんだ」って、きちんと自分の力で説明できる子どもを育てたい。子どもたちも、いろんな人生を送ると思いますが、どんな人生を送っていても最後は生き抜く力、知恵が大事ですよね。

――田中先生はなぜ、飯舘村とかかわり続けているのですか。

田中:原子力委員会の委員の任期が終わって1年ちょっとで事故が起きて、当時は、なにもしていなかったんです。放射能の状況をみて、除染をしないといけないと思い、最初に行ったのは、飯舘村の長泥地区なんです。そのときに、一個人として除染をやろうとすると、必ず国からクレームがつくだろうと思って、それに対抗するにはどうしたらいいのかなと考えて、メディアの人たちに「今度、試験的な放射能除染をやるので興味があったらおいでください」と声をかけました。

大勢のメディア関係者が来て、報道されました。その後の除染のあり方には、問題は感じていますが、わたしたちの取り組みは、メディアの力で市民権を得ることができました。メディアの力ってすごいんです。その後、菅野典雄村長とのつながりもあって村を手伝っていたんです。そうこうしているうちに、規制委員会の委員長をやれと言われました。

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