飯舘村から考える日本の政治の欠陥と処方箋 黒川清氏が田中俊一氏を訪ね、話し合った

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田中:これで、矢内原原則を実質的に乗り越えることができましたし、原子力はいつまでもエネルギーとしてだけではなく、放射線、素粒子物理学など、さまざまな基礎研究をやりながら、新しい展開を図らないといけないというのがわたしの思いだったんです。その出発点となるプロジェクトを実現し、わたしの原研での仕事は終わったんです。

「ああいう東大寺の大仏のようなものができると善男善女がたくさん集まってくる」と、どなたかが言っていましたが、現在、世界中の30カ国以上から、研究者が集まって研究をしています。黒川先生は国際人だけれども、先端の分野での研究になると、日本人なのか外国人なのかなんてまったく関係ありません。

オールジャパンよりも、もっと広い視野で考える

黒川:リニアコライダー(注:地下100メートルに全長30キロにおよぶ研究施設を建設する計画。衝突加速器で電子と陽電子を衝突させる。宇宙誕生の謎を解き明かす研究などにも活用できるとされる)を造る国際的な計画があって、システムのデザインは日本が担当したんですね。

日本は、岩手県に造るという構想がありますが、日本が資金を出したとしても、アジアに造ればいいと思っていたんです。こうした話のときには、「日本におカネを落とそう」「オールジャパンでやろう」「場所は日本に……」という発想になりがちですが、先端分野の大規模研究は特に、オールジャパンよりも、もっと広い視野で考える必要があります。

――黒川さんは2017年5月から、衆院原子力問題調査特別委員会のアドバイザリーボードで活動されています。

黒川清氏。規制当局の監視を続けることが重要だと話す(筆者撮影)

黒川:国会事故調で、7つの提言を出し、英語版も作りました。少し前に、原発を持つある国の法務大臣が来て、お昼ご飯に行きましょうと言われたので、行きました。行ってみると、日本人は私しかいなかったんですが、大臣が「国会事故調の7つの提言はどうなりましたか」と聞くので、驚き、恥ずかしかった。国際的には、そのぐらい知られています。

「規制当局に対する国会の監視」という提言1については、確かに衆院で森英介委員長の時に1回は国会事故調の委員が呼ばれて、それ以外は何もしていません。

去年は、衆院原子力問題調査特別委員会の委員長が、三原朝彦さんだったんです。彼が「どういうことをしたらいいか」と聞きに来たので、「アドバイザリーボードを作りましょう」と言ったんです。その7人の委員には、原子力の専門家だけではなく、大きな公共事業を実施する際にどうやって合意形成をするかを専門にしている研究者や、アメリカの行政活動の監視制度を研究している専門家ら、多様な分野の人に加わってもらった。すぐに何かが変えられるわけではありませんが、少しずつでも、国民や国会議員にもこの事故調の意義を理解していただき、国会のあり方について少しでも意識を変えることができたらと思っています。だから、当分このメンバーは変えないでいただきたいとお願いしています。

田中:三原先生は、わたしが規制委員会の委員長を辞める時、衆院の原子力問題調査特別委員会の委員長でした。「辞めるんなら、言いたいことを言っていけばいい」と、特別委員会の冒頭に機会を設けていただきました。そのとき、わたしが申し上げたのは「原子力を続けるか、続けないかは、規制委員会が決めることではありません。決めるのは国会です。もっと与野党を問わず議論をしてください」ということ。それから、「技術基盤が非常に弱っているので、どの方向に進むにしても、非常に心配される状況です。この点も考えてほしい」と。この2点を申し上げました。

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