田中:議論をフルにオープンでやったというのが、いちばんの力になったと思っています。そういう文化になれば、日本の役所もよくなると思います。メディアを含めて、いろんな聴衆が見ているから、自分の発言に責任が出てきます。規制をする立場というのは、非常に強い権力を持っています。それだけ責任があるのだから、やたらと権力を振り回してはいけません。
内部では、職員にもっと勉強しておけとか、ずいぶん厳しく注文をつけたこともあります。単なる雑談ではなくて判断をするために、規制庁の職員もみんなの前で発言をしなければなりません。そういう中で鍛えられていくんです。
発言する場と、責任ある発言をする環境さえつくれば、自然に組織はいきいきと動き始めます。いまの政治も、フルオープンでやったら、もっと建設的な議論ができるようになるのではないかと思います。
黒川:隠したって、いずれはバレるからね。オープンにしていれば、どうってことないんですよ。公文書は、もともと国民のためのもので、オープンな性格のものですし、後世に国家を検証し、学ぶことができるようにする、国家の歴史そのものです。メモがないとか言っているほうがおかしい。いまは隠すような時代じゃない。政治家も官僚も思考の枠組みが貧しすぎるし、浅い。基本的には知られて困る話なんてないはずです。いまの時代は、公開しながら、みんなに問いかけることがすごく大事です。
田中:原子力技術の軍事転用を防止するためや、テロ対策など、オープンにできない情報はあります。規制庁の担当のセクションには、われわれだって自由には出入りできませんでした。
政治的な介入などを防ぐのは、メディアや世論であるし、議論をオープンにしていると、理不尽な力が入り込むことが非常に難しくなる。そういう意味では、フルオープンでやることの力を、規制庁の職員も含め、みんなが体験的に学びました。
わたし自身もこんなにすごいものだとは思わなかったけれども、強力ですよ。世の中、みんなが見ているところでは、良識がきちっと働きます。そういうふうに日本がなっていくといいなと思っています。
規制委員会では根回しはしない
――省庁の審議会を見ていると、外部の委員には事前に入念な根回しがあって、会議が開かれる前に方向性は決まっているという印象も受けます。
黒川:審議会は一応シナリオがあって、一応は、みんなに意見を言わせるけど、方向性と違う主張を曲げない人がいれば、その人は、しだいに委員として呼ばれなくなります。単なる役所のアリバイづくりの面もある。最近、認知症の件でイギリス政府の委員を務めましたが、政策を作り上げていくプロセスがまったく違いますね。
田中:事前に勉強してもらうことはあるけれど、規制委員会では根回しはしません。時には専門家の意見を必要とする場合はありますし、さまざまな意見を参考にはしますが、基本的には決めるのは自分たち委員会というスタンスでした。日本では今までになかったことだと思います。
原子力規制委員長は、政府や国会の思惑で自由に代えることはできません。国会には5年間で、各種の委員会に200回以上出ましたが、国会議員も「独立した規制委員会が決めたことを尊重しよう」ということで押し通していただけました。
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