統計に出ない40歳以上の「引きこもり」の現実 親の高齢化、8050問題、サポートの壁…
そこで牧野さんは、ひきこもりに年齢の壁が立ちはだかることを思い知ることになる。
「40歳以上はサポートの対象外なんです。話は聞いてくれますが、訪問に来たり、何か紹介してくれることは一切なかったです。“ごめんなさい、東京都では40歳以上の方はどうしようもできなくて”というような回答でした」
頼ったところは前出・深谷さんがソーシャルワーカーを務めるNPO。“東京の巣鴨でひきこもりの経験者や当事者が集まる会があるから、頑張って巣鴨まで出てきてごらん”と誘われるまま足を運んだ。
「参加費は2000円。2年ぶりの外出でした。そこでかけていただいた言葉が今でも忘れられないのですけれど、“ひきこもれる勇気があるんだよ”って。初めてひきこもりを肯定してもらえました」
外に出る最初の一歩。人間関係に対する疲れや恐れを取り除くこと。そして、
「ひきこもってることを肯定していきましょう。親が“いつまでそんなことをしているんだ”と言っても、本人がいちばんよくわかっています。ひきこもり=悪ではない。
人はある程度エネルギーがないと外に出られないので、家庭の中でまず生きるためのエネルギーを蓄えることが必要です。親は早く働いてほしいと思いがちですが、その前に生きること。働くことはゴールではないので」(前出・深谷さん)
“ひきこもり女子会”など女性のひきこもりを支援する、一般社団法人『ひきこもりUX会議』の代表理事・林恭子さんは、
「ひきこもり支援などができて約20年になりますが、行政や民間団体の支援はほぼ就労支援なんですね。就労を目的としてしまうと、ひきこもり問題はうまくいかない」
ときっぱり。焦りは禁物で、
「就労支援よりもっと手前の、まずは外に出るとか、人の中で3時間いるとか、電車に乗るとか、人との会話の練習をするとか、そこからなんです」
3人のモデル事例
ここに3人の、モデル事例がある。前出・深谷さんがソーシャルワーカーを務めるKHJの調査・研究事例報告書、および愛知教育大学の川北稔准教授の調べによる実態が映し出すのは、脱ひきこもりに向けたさまざまな取り組みだ。