日大と関学、一体どこで明暗が分かれたのか 「危機管理」への備えと対応の差が目立った

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経営トップもまた、問題が起こらない限り、そんなことに時間も予算も使ってはくれないのが現状だ。ただ現在ブランディング的に成功している一部の大規模な大学は、危機管理広報もうまくやっていると思う。大学の中には、トップ直轄で積極的に広報活動に取り組む学校も増えてきた。

そんな中で、伝統ある日本一のマンモス大学である日大の広報が、あれほどお粗末だとは驚いた。また広報の責任者は内部と外部の正当な関係を繋ぎ、常に客観的に物事を見て判断し、たとえそれが自分たちにとって不利益になろうとも、法律に反すること、人の命に関わること、反社会的勢力に対する事に関しては、トップを説得して世間に謝罪せねばならない。

今回の日大の案件も、一歩間違えれば人の命に関わることである。組織のトップが何と言おうと、まず即座に謝罪を促すべきだった。それができずに余りにも遅れたために、致命的な所にまで追い込まれてしまった。もし仮に、同大学広報の危機管理意識が高く、初動が早ければ、アメフト部同士での和解が成立し、学生個人が世間に顔出しで晒し者になることはなかっただろう。

広報が機能しない「なれ合い」や「甘さ」に要因

これは、まさに広報が機能しない日大のなれあいの組織人事や危機に関する認識の甘さに要因がある。

ちなみに関学の小野ディレクターは26日の会見で「この案件は発生した最初からスポーツの安全性、指導者の指導のあり方からかけ離れていると認識していた」と述べており、彼の危機管理に対する認識の高さを示している。小野氏は元朝日新聞記者という経歴を持つ。関学OBとはいえ、記者会見を混乱なく仕切れたのは、メディアの裏側を知るちゃんとした経歴の人を積極的に採用して、危機管理広報を構築していたからである。

大学など学校法人における広報活動は、生徒集めなどの宣伝に偏りがちだ。しかし、こうした重大な問題が発生した場合に、できるだけ毀損を最小限に食い止め、学生と大学組織を守っていくスキルも欠かせない。危機管理のスキルアップが求められているのである。

北田 明子 広報・PR、危機管理広報アドバイザー

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きただ あきこ / Akiko Kitada

大学卒業後、1983年大阪読売新聞社入社。89年同社退職後イギリスに留学。帰国後フリーランスの経済誌記者などを経て、2001年対中国投資コンサル会社の副総経理として中国に駐在。05年に帰国後、危機管理広報を中心とした広報アドバイザーとして活動。11年民間から大阪市交通局の広報課長に就任。19年堺市の広報戦略専門官に就任。22年に堺市を退職後は文筆活動のかたわら、民間や自治体の広報アドバイザーとして活動中。22年より滋賀県公文書管理・個人情報保護・情報公開審議会委員。主な著書に『笑うヤミ金融』(ダイヤモンド社)、『企業法務と広報』(共著・民事法研究会)、『企業の法務リスク』(共著・民事法研究会)がある。

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