「ここで死んでもいい」という覚悟が力を生む プロトレイルランナーに学ぶ人生の極意
現地入りして、レースまであと数日というときには、高ぶった気持ちを抑えるために、気持ちが落ち着く映画を見たり、歴史小説を読んだりして過ごします。
僕は司馬遼太郎が大好きで、月並みですが『竜馬がゆく』(全8巻、文春文庫、新装版1998年)や、幕末・長州の大村益次郎を描いた『花神(かしん)』(上中下巻、新潮文庫、改版 1976年)はもう何回も読んでいます。レース前に読むと、不思議と気持ちが落ち着くのです。
最後まで走り切れるなら燃え尽きてもかまわない
この2つのストーリーには共通点があって、底辺にいた人間がはい上がっていく過程を描いた物語で、最後にやっと花開いた直後に2人とも暗殺されて死んでしまうのです。人生を懸けて成し遂げた後、何の未練もなくパッと消えていくところに美学を感じるというか、そういう生き方に対するあこがれがすごくあります。
この2人の生きざまに、これからレースに臨む自分をなぞらえているのかもしれません。まもなく始まる本番に向けて、僕の気持ちは「もうこの先がない」「これで死んでもいい」と思い詰めてしまうくらい高ぶっています。決して悲壮感が漂っているわけではなく、自分にとって最高の舞台、人生の中の一大イベントがこれから始まるんだという期待感、最後まで走り切れるなら燃え尽きてもかまわないという覚悟が、怒涛のように押し寄せてきます。そのときの気分に、坂本龍馬と大村益次郎の生きざまがピタリと重なるのです。
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