「ここで死んでもいい」という覚悟が力を生む プロトレイルランナーに学ぶ人生の極意

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「もう後がない」「ここで自分は死ぬんだ」という強い気持ちがないと、160キロものレースは戦えません。「ダメでもともと。失敗しても後があるよ」と軽い気持ちで臨んだら、最後まで完走することさえおぼつかないでしょう。

だからといって、暗くなってはいけません。悲壮感を持ってしまうと、「このレースではどんな景色に出会えるんだろう」「どんな自分に出会えるんだろう」というワクワク感が消えてしまうからです。決して暗くならずに、前向きに死ぬこと。それが限界を超えて最後まで走り抜く力を生み出します。

一つひとつのトレーニングも、大会後に一度リセット

レースの終盤、身も心もボロボロになって、極限まで追い込まれたときの精神状態を表現するのに、「死ぬ」という言葉ほどしっくりくる言葉はありません。『あしたのジョー』の矢吹丈が最後に燃え尽きて灰のようになったのと同じく、ウルトラトレイルを走り抜いたら、いったん死んで葬式をあげる。これまでの一つひとつのトレーニングもそこで一緒に成仏させる。そうして1回リセットしてから、次のレースに向けて新たな人生を歩み始める。僕はそれを繰り返してきたのです。

『プロトレイルランナーに学ぶ やり遂げる技術』は5月1日発売(書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)

普段の仕事で「ここで死んでもいい」と思えるくらい、気分が高揚することはないかもしれませんが、「いざとなったら、いつでも辞められる」という覚悟があれば、大抵のことはできます。「いつでも辞められる」からこそ、誰に対しても自分の意見をしっかり言い、上司や他部署、お客様と対等な関係を築くことことができるのです。「この仕事をクビになったら後がない」と思っていると、相手に対してどうしても下手(したて)に出てしまいます。それでは、自分の力を発揮することはできません。

「この仕事をやり遂げたら、自分はこの部署・この会社を卒業してもいい」と思えるくらいの仕事と出会えたとしたら、それはとても幸せなことです。実際に卒業するかどうかは別として、全力で取り組んで、後悔しないようにしたいものです。

鏑木 毅 プロトレイルランナー

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かぶらき つよし / Tsuyoshi Kaburaki

1968年、群馬県生まれ。プロトレイルランナー。群馬県庁で働きながら、アマチュア選手として数々の大会に出場し優勝。40歳でプロ選手となる異色の経歴を持つ。2009年、世界最高峰のウルトラトレイルレース「ウルトラトレイル・デュ・モンブラン(通称UTMB、3カ国周回、走距離166km)」にて世界3位。また、同年、全米最高峰のトレイルレース「ウエスタンステイツ100マイルズ」で準優勝。49歳となる現在(刊行当時)も世界レベルのトレイルランニングレースでつねに上位入賞を果たしている。現在は競技者の傍ら、講演会、講習会、レースディレクターなど国内でのトレイルランニングの普及にも力を注ぐ。アジア初の本格的100マイルトレイルレースであり、UTMBの世界初の姉妹レースであるウルトラトレイル・マウントフジ(UTMF)の大会実行委員長を務める。2019年に50歳で再びUTMBに挑戦することを表明。NEVERプロジェクトとしてその挑戦を伝えていく。

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