ソフトバンク孫社長、米国携帯合併の「本音」 半年前の説明とは矛盾する点が多かった

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ただ、Tモバイルの親会社、ドイツテレコムとの交渉がなかなかまとまらなかったのは、ソフトバンクグループ側に経営権に対する強いこだわりがあったためだ。

わずか半年前、前回の交渉が破談になった直後の中間決算会見で孫社長は、「スプリントは戦略的に重要な拠点で、経営権を手放してまで合併をすべきではない」とはっきり述べていた。経営権が大事な理由としては、米国市場の重要性のほか、米ワンウェブの衛星事業や、英アームのIoTチップなど、投資するグループ会社とのシナジー効果を挙げていた。

経営権を譲ることになった今回の合併の説明でも、孫氏は同じようにこうしたグループでのシナジーを強調。5Gの時代に力を発揮する周波数をスプリントとTモバイルが持っているとして、「足せば最強の組み合わせになる」と述べた。

経営権を失うことは「小さな妥協」

今回、経営権を失うことで描いてきた米国市場での絵はどう変わるのかについては、何も説明はなかった。そのうえ、孫社長は「統合で得られるシナジー、得られる戦いのポジションは非常に大きい」として、あれだけこだわった経営権を「大きな成果の前には小さな妥協はいいと飲み込んだ」とまで述べた。

経営権のこだわりを捨て「プレミアムを払う側から受ける側になった」と表現した(撮影:今井康一)

ほかにも孫社長は「以前は買収して完全にコントロールを取りたい、そのために(取得しようとしていた株式に対する)プレミアムを30~40%取る、というところで交渉をしていた。でも逆に、プレミアム30~40%を払う側から受け取る側になった。経済的な面でいくと悪くない」とも話した。

だが、前回の破談時には、ドイツテレコムのティモテウス・ヘットゲスCEOに対して「株の売却金額など細かい条件面ではなく、経営権という根幹に関わることだからなしにしよう」と伝えている。交渉再開後に条件の上積みがあったとしても、それは「細かい条件」であったはずで、今回の決断との整合性が取れない。

結局、孫社長が翻意した理由のほとんどは、自らの関心の移り変わりと、それに伴うソフトバンクグループの会社としての性格の変化にありそうだ。前回の破談時から今回の合意までにあった大きな動きは、国内携帯事業会社のソフトバンクの上場準備の発表だった。

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